Case195 人事考課により4年連続減給された事案で個々の人事考課に権限濫用はないとしても連続減額は不合理であり当初賃金から10%を超える減額部分は減額幅決定権限の濫用に当たり無効であるとした事案・マーベラス事件・東京地判令4.2.28労判1267.5
(事案の概要)
被告会社は、平成27年度から人事・報酬制度ガイドブックを定めて従業員に周知しました。本件ガイドブックでは、報酬テーブルとして84の賃金グレードが定められており(平成30年度までに242の賃金グレードに改定。)、年1回行動評価の結果によって賃金グレードのアップダウンを決定するとされていました。また、行動評価において3つ以上の項目で2以下の評価または5項目平均で2.5以下という降格基準が定められていました。
会社は、行動評価及び降格基準に従い原告の賃金を4年連続で減額し、その結果、1回の減額幅は10%以内であったものの、4年間で原告の月額賃金は約30万から最低賃金に近い約21万円まで約30%減額となりました。
本件は、原告が会社に対して、減給の違法無効を主張して差額賃金や慰謝料の支払いを求めた事案です。
(判決の要旨)
判決は、賃金を減額する根拠規定があり、会社が本件評価に当たり考課裁量を逸脱または濫用したとは認められず、本件評価のいずれについても、本件降格基準を充足しており、会社が原告に対する降格減給を実施する権限があったとしました。
もっとも、上記権限の行使による減額内容等によっては、なお減額幅決定の濫用により賃金減額の効力が否定されるとしたうえ、本件賃金減額は通常の労働に対する対価としての賃金を継続的に一定額減給するものとしているうえ、賃金グレードが下げられたからといってそれに伴う労働契約上の職責や職務内容の変更を伴わなかったと認められるところ、1回の減給幅は10%以内であっても、繰り返し賃金グレードを下げれば労働者の不利益が大きくなっていくことは明らかであり、会社はこれに何らの手当てをしておらず、労働者の不利益の大きさと対比して連続減額の客観性および合理性の乏しさは否定しがたいとして、当初の賃金から10%を超える減額部分については、賃金減額決定権限の濫用に当たり無効としました。
上記の限りで差額賃金の請求が認められ、損害賠償請求は棄却されました。
※確定