Case197 新人美容師につき退職したら講習手数料を支払う旨の誓約書が違法な損害賠償の予定に当たり無効とされた事案・サロン・ド・リリー事件・浦和地判昭61.5.30労判489.85

(事案の概要)

 原告会社が、退職した被告労働者に対して講習手数料を請求した事案です。

 美容室を経営する会社では、研修を施した新人社員が退職することを防ぐために、進入社員に対し「万一、私が会社からの色々な指導を自分の都合でお願いしているにもかかわらず勝ってわがままな言動で会社側に迷惑をおかけした場合には、……指導訓練に必要な、諸経費として入社月にさかのぼり一か月につき金4万円也の講習手数料を御支払いいたします。」旨の誓約書を書かせていました(本件契約)。

 会社は、本件契約に基づき、約7.5か月で退職した被告労働者に対して、講習手数料30万円の支払いを求めました。

(判決の要旨)

 労基法16条は、「使用者は、契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めています。

 判決は、同条の趣旨は、労働者が、違約金又は賠償予定額を支払わされることを虞れ、その自由意思に反して労働関係を継続することを強制されるような事態を防止するところにあるとし、違約金又は損害賠償の予定を定めていることが一見して必ずしも明白でないような場合であっても、上記趣旨に実質的に違反するものと認められる場合には、契約は同条により無効となり、これを判断するにあたっては、契約の内容及びその実情、使用者の意図、契約が労働者の心理に及ぼす影響、基本となる労働契約の内容及びこれとの関連性などの観点から総合的に検討する必要があるとしました。

 そして、本件契約における従業員に対する指導の実態は、一般の新入社員教育とさしたる違いはなく、使用者として当然なすべき性質のものであり、本件契約に合理性がないこと、本件契約が講習手数料の支払義務を従業員に課することにより、その自由意思を拘束して退職の自由を奪う性格を有することが明らかであることから、本件契約は労基法16条に違反するとして、会社の請求を棄却しました。

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