Case319 使用者から義務づけられ選択の余地がない営業活動費を賃金から控除する合意は労働者の自由な意思に反し許されないとした事案・住友生命保険(費用負担)事件・京都地判令5.1.26労判1282.19

(事案の概要)

 被告会社では、労使協定により、営業職員の賃金から、営業職員が業務に使った携帯端末使用料や物品代等の経費を控除していました。

 本件は、会社の営業職員である原告労働者が、会社に対して、経費を賃金から控除することは労基法24条1項に違反するなどと主張し、控除相当額の支払い等を求めた事案です。

(判決の要旨)

 判決は、労基法24条1項但書に基づき労使協定により賃金からの控除が許される「事理明白なもの」とは、労働者が当然に支払うべきことが明らかなものであり、控除の対象となることが労働者にとって識別可能な程度に特定されているものでなければならない一方で、労働者が自由な意思に基づき控除に同意した費用は、労働者が当然に支払うべきことが明らかなものに該当するので、その控除は労基法24条1項に違反しないとしました。

 もっとも、賃金全額払いの趣旨に照らし、使用者から義務づけられ、労働者にとって選択の余地がない営業活動費を労働者が負担することは、自由な意思に基づく合意とはいえず、賃金からの控除は許されないとしました。

 そして、本件の経費控除のうち、全営業職員が一律に定額負担するコピー用紙トナー代については、個別合意が認められず、賃金全額払い原則の趣旨からも有効性を認めることは困難であるとして、賃金からの控除を違法とし、控除相当額の支払いを認めました。

※控訴

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