Case326 三次救急の救急外科医につき職種限定を認め配転命令を無効とし就労請求権も認めた事案・地方独立行政法人市立東大阪医療センター(仮処分)事件・大阪地決令4.11.10労判1283.27

(事案の概要)

 外科及び救急科専門医である本件労働者は、本件法人が運営する三次救急である救急救命センター(Aセンター)において外傷・救急外科医として勤務していました。

 本件労働者は、Aセンターの所長と対立し、Aセンターにおける労働環境について問題提起したり、所長に関する内部告発を行うなどしました。

 そうしたところ、本件法人は、本件労働者をBセンターに配置転換しました(本件配転命令)。

 外科専門医の資格更新には過去5年間に一定の要件を満たす手術を100例以上行う必要がありますが、三次救急であるAセンターとは異なり、二次救急であるBセンターはほとんど手術がありませんでした。

 本件は、本件労働者が、本件配転命令の無効を主張して、Bセンターで勤務する義務がないことを仮に定め、本件法人が本件労働者がAセンターに立ち入り外傷・救急外科医として就労するのを妨害してはならないとの仮処分を求めた事案です。

(決定の要旨)

1 職種限定契約

 決定は、本件労働者が一貫して外科、救急科医師として稼働し、豊富な手術の経験に着目してAセンターに配属されたと推認されること、三次救急の医師不足から本件法人がAセンターの医師として採用した医師を本人の意思に反して他の医療機関に配置転換することは何ら予定されていなかったと推認され、過去にも例がないことから、本件労働者と本件法人との間で、勤務場所をAセンターとし、勤務内容を外傷・救急外科医に限定する合意が成立していたとし、本件法人の配転命令権を否定しました。

2 配転命令権の濫用

 また、本件配転命令は業務上の必要性がなく、本件労働者が被る不利益も通常甘受すべき程度を著しく超えるものであるから、本件配転命令は配転命令権の濫用にも当たるとしました。

3 就労請求権

 決定は、雇用契約等に特別の定めがある場合、または業務の性質上労働者が労務の提供について特別の合理的な利益を有するなどの特段の事情がある場合を除いて、労働者が使用者に対し就労請求権を有するものではないとしました。

 そのうえで、決定は、本件労働者が有する医師としての技能、技術の著しい低下という、本案判決を待っていては回復し難い損害を回避するためには、Aセンターにおいて就労することへの妨害を禁じることにより、本件労働者の就労先がAセンターであることを明確にしたうえで、Aセンターでの就労の機会を確保することが是非とも必要であるとして、本件労働者の就労請求権を認め、本件法人が本件労働者がAセンターに立ち入り外傷・救急外科医として就労するのを妨害してはならないと命じました。

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