Case378 定年後再雇用において更新後の労働条件が合意できなかったことを理由とする雇止めが無効とされ従前と同一の条件で契約が更新されるとした事案・田中酸素(継続雇用)事件・広島高判令2.12.25労判1286.68
(事案の概要)
原告労働者は、被告会社を定年退職した後、1年間の嘱託社員として会社に再雇用されました。原告の賃金は、暫定的に月19万円、ただし基本給と賞与については今後団体交渉によって取り決めるとされました。
会社の嘱託規程では、再雇用以降、本人が再雇用契約の更新を希望し、かつ、同規程に定める再雇用基準をすべて満たす場合には、さらに1年以内の再雇用契約を更新する、再雇用者の給与は、定年退職時の賃金をもとにして、健康で文化的な生活を営めるよう個別の再雇用契約で定めるとされていました。
原告は、再雇用基準をすべて満たしていたため、会社に対して再雇用契約更新の申込をして労働条件について交渉しましたが、雇用期間満了までに合意に達しませんでした。会社は、原告に対し、当面現在の労働条件で1か月の猶予期間を持ち、その間に双方が受け入れられる労働条件の提示に努めることになったと通知し、その後給与が更に減額となる3種類の労働条件を提示し、それら以外では契約更新に応じられない旨通知しました。
原告は、一旦は会社提示の労働条件の一つで契約する旨述べましたが、その後会社の一方的な提案には応じられないとして、雇用契約書にサインしませんでした。
会社は、原告が嘱託労働契約の継続契約権を破棄したものとして、原告との雇用契約を終了すると通知しました。
本件は、原告が会社に対して、雇用契約の終了が無効であるとして、雇用契約上の地位の確認等を求めた事案です。
(判決の要旨)
判決は、賃金は暫定的に月19万円、ただし基本給等については今後団体交渉によって取り決めるとする継続雇用契約において、当該契約期間中に給与額を変更する合意がなかった以上、継続雇用契約の内容は19万円の基本給での契約ということで定まったものと評価すべきとしました。
そして、1か月の猶予期間は契約更新の条件を交渉するための期間であるとし、猶予期間経過により会社が雇用契約を終了させたことは雇止めに当たるとし、雇止めに関する労契法19条を準用して、会社が契約終了とするには客観的合理的理由があり社会通念上相当であることが必要であって、そうでない場合には本件継続雇用契約は従前どおりの条件で自動的に更新されるとしました。
そのうえで、原告が会社提案の労働条件を拒否したことは、契約終了の客観的合理的理由とも社会通念上相当な理由ともいえず、基本給19万円で契約が更新されたものとして雇用契約上の地位を認めました。
※上告棄却により確定