Case423 公務員が病気休暇中に上司から示されて提出した退職願が、自由な意思に基づかず無効であるとされた事案・栃木県・県知事(土木事務所職員)事件・宇都宮地判令5.3.29労判1293.23
(事案の概要)
原告労働者は、平成3年に栃木県知事によって被告栃木県の技術吏員に任命され、県内の土木事務所で勤務していましたが、平成27年から双極性感情障害を理由に180日間の病気休暇を取得し、478日間休職し、平成28年12月に復職していました。
原告は、令和元年10月に再び双極性感情障害を理由に病気休暇を取得しました。
病気休暇中、原告は上司2名と面談し、面談において上司らは、原告が仕事を休むことで他の職員等に迷惑が掛かっており、仕事をしていない原告に給与が支給されることに対し納税者たる県民の理解が得られないのではないかなどと畳みかけるように告げ、さらに、原告に県職員は向いていないという見方もできるとして、退職という選択肢を示し、あらかじめ用意していた退職願の様式をその場で交付しました。
原告は、その2日後に退職願を提出し、県は辞職承認処分をしました。
本件は、原告が退職願は自由な意思に基づくものではなく無効であるとして、辞職承認処分の取り消しを求めた事件です。
(判決の要旨)
判決は、たとえ上司らに退職勧奨の意図がなかったとしても、原告からすれば、退職を勧められていると受け止めても仕方がない状況であったと認められるところ、原告が面談時にあくまで復職を希望していたことや上記経過からすると、退職は原告の意に反するものであったといえ、面談当時の健康状態及び面談における上司らの説明が相互作用したことにより、熟慮することができないまま退職の選択肢しかないという思考に陥った結果、退職願を提出するに至ったものと認められるから、退職願は自由な意思に基づくものとはいえず、退職願を前提としてなされた辞職承認処分も違法であり取り消されるべきであるとしました。
※控訴