Case443 労働組合が使用者と交渉・和解することは弁護士法72条の法律事務の取扱いに当たらず組合規約に基づき解決金から拠出金を受領することは同条に違反しないとした事案・プレカリアートユニオン(拠出金返還等請求)事件・東京高判令4.12.15
(事案の概要)
被告労働組合の元組合員である原告労働者が、組合を訴えた事件です。
原告は、アルバイト先のA社に解雇されたことから組合に加入し、A社と解決金19万円で退職和解しました。
また、原告は、就業先のB社から出勤停止処分及び懲戒解雇を受け、組合を通じて交渉して解決金300万円で退職和解しました。
組合は、組合規約の中の「組合員は、自己の権利に関わる問題について団体交渉や労働争議等を経て、使用者側等相手方から、和解金、未払い賃金、慰謝料等、名称のいかんを問わず解決金が支払われた場合、組合の支援を受けて労働災害補償の一時金が支払われた場合には、それらの2割相当額を組合活動のための基金として組合に納入する。ただし、組合は、拠出金の金額を事情により減額することができる」との定めに基づき、A社との解決金の2割に相当する3万円、B社との解決金の1割に相当する30万円の拠出金を徴収しました。
その後、原告は組合に所属しながら別の労働組合を結成して分派活動を行ったことを理由として組合から権利停止の制裁を受け、またインターネット上で組合が「反社会的勢力と繋がりがある」などと組合の名誉を毀損したことなどを理由に組合から除名の処分を受けました。
原告は、組合に対して、A社及びB社と意に反する内容の和解をさせられた、組合に違法に懲戒解雇され、除名処分を掲示されたことにより名誉を毀損されたなどと主張して不法行為に基づき損害賠償請求するとともに、弁護士法72条に違反して拠出金を徴収されたと主張して不当利得返還請求しました。
(判決の要旨)
一審判決・東京地判令4.5.24労判1268.13
判決は、組合が原告の意に反してA社及びB社と和解を成立させた事実は認められず、組合が原告に録音反訳や計算シート入力の報酬として行動費を支払っていたものの指揮命令下での雇用とはいえず、除名処分の掲示も原告の分派活動を理由とした組合の組織運営上の正当な行為であるとして原告の損害賠償請求を棄却しました。
また、労働組合が組合員のために組合員の雇用主と団体交渉等を行って和解を成立させることは、みだりに他人の法律事務に介入する行為ということはできず、これによって組合員その他の関係者らの利益を損ねたり、法律生活の公正かつ円滑な営みを妨げるものとはいえないから、弁護士法72条所定の法律事務を取り扱うことには当たらず、組合規約に基づく拠出金の受領は弁護士法72条に違反しないとして、原告の不当利得返還請求も棄却しました。
控訴審判決
控訴審も、一審判決を維持しました。