Case456 ハイヤー乗務員について実作業時間のほかに手待ち時間がある可能性もあることなどから恒常的長時間労働を認めうつ病の業務起因性を肯定した事案・国・太田労基署長(羽田交通)事件・東京地判平27.5.28労判1120.5
(事案の概要)
労災不支給決定に対する取消訴訟です。
原告労働者は、本件会社のハイヤー乗務員として、発症直前6か月では1か月あたり約75時間、直前4か月では1か月あたり80時間超え、直前1か月間では月100時間を超える時間外労働(実作業)を行っていました。
平成19年7月、本件会社の親会社が参議院議員選挙に伴うテレビ局の取材車両を臨時的に受注したため、顧客への配車が予定通り行えなくなり、原告が急遽他社に依頼して代替車両を手配する作業を行ったほか、後日原告が顧客を訪問して顛末を謝罪しました(本件出来事)。本件出来事に先立って、原告は上司から、顧客からの未収金は原告本人に責任をとってもらう旨の発言を受けていました。
原告は、平成19年10月にうつ病を発症し、労基署に労災申請しましたが不支給決定がなされました。
(判決の要旨)
判決は、労災の判断指針および認定基準の内容には合理性があり、少なくともこれらの定める要件が充足されれば、特段の事情がない限り業務起因性は肯定されるが、絶対的なものではないから、厳密にいえば認定基準の要件が完全に充足されているとはいえない場合であっても、事案の内容や認定基準の基礎となっている医学的知見に照らし、業務起因性を認めるのが相当なこともあるとしました。
そして、上記実作業時間のほかに手待ち時間も発生している可能性があること、一般に、少なくとも月80時間を超える時間外労働が発生しているときは、労働者が生活を営む上で必要とされている1日6時間の睡眠時間も確保できなくなると考えられていることなどを考慮すると、原告の時間外労働は、認定基準にいう恒常的長時間労働に相当するとしました。
また、本件出来事の心理的負荷の強度は、認定基準の「顧客や取引先から無理な注文を受け、何らかの事後対応を行った」場合と同様、「中」と評価することもできるとし、その前後に恒常的な長時間労働が認められることから、総合評価を「強」として業務起因性を認め、労災不支給決定を取り消しました。
※確定