Case465 国労マークの入ったベルトの着用が「胸章、腕章等」の着用を禁止する就業規則に違反しないとして就業規則の書き写しを命じた教育訓練を違法とした事案・JR東日本(本荘保線区)事件・仙台高秋田支判平4.12.25労判690.13

(事案の概要)

 国鉄労働組合(国労)の組合員であった原告労働者は、被告会社において、国労マークの入ったベルト(いわゆる国労グッズの一つ)を着用して業務を行っていたところ、被告区長から、ベルトの着用が就業規則に違反するとして厳しく非難され、ベルトを外すように命じられました。また、その翌日、原告は被告区長に呼び出され、就業規則全文の書き写し等を内容とする本件教育訓練を命じられました。

 会社の就業規則は、「勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の『胸章、腕章等』を着用してはならない」と定められており、会社は国労グッズの着用を一律に禁止していました。

 本件は、原告が会社及び被告区長に対して損害賠償請求をした事案です。

(判決の要旨)

 判決は、就業規則に基づき会社が社員に命じ得る教育訓練の時期及び内容、方法は、その性質上原則として会社の裁量的判断に委ねられているが、その裁量は無制約なものではなく、その命じ得る教育訓練の時期、内容、方法において労働契約の内容及び教育訓練の目的等に照らして不合理なものであってはならないし、また、その実施に当たっても社員の人格権を不当に侵害する態様のものであってはならず、不合理ないし不当な教育訓練は、会社の裁量の範囲を逸脱又は濫用し、社員の人格権を侵害するものとして、不法行為に該当し、裁量の逸脱、濫用の有無は、当該教育訓練に至った経緯、目的、その態様等諸般の事情を考慮して判断すべきとしました。

 また、上記就業規則を合理的に解釈して、ベルトのように会社が特に制服の一部として特定の物品を指定していないが社会通念上必需品と認められる服装品の着用については、原則として社員の自由選択に委ね、ただ、合理的理由がある場合は、会社がその着用、使用を禁止又は制限できることとし、胸章、腕章等必ずしも必需品とはいえない服装品及びこれに装着する物品については、会社が特に認めた物以外の着用、使用を禁止する趣旨と解するのが相当であるとしました。

 そして、国労グッズの一種であるベルトの着用を一律に禁止することに合理的理由があるか否かは、社員の服装選択の自由と会社の事業の性格に由来する社会性、公共性及び職場秩序維持の必要性ならびに業務遂行上の必要性等の調和の観点から判断すべきであるとしました。

 そのうえで、具体的事情から本件ベルトの着用により対内的にも対外的にも職場規律が乱れるおそれがあったとはいえないとして、本件ベルトの着用は上記就業規則に違反しないとしました。

 また、本件ベルトの着用が就業時間中の組合活動にも当たらないとしました。

 そして、本件教育訓練は目的においても具体的態様においても不当なものであって、原告に肉体的、精神的苦痛を与えてその人格権を侵害するものであるから、裁量を逸脱、濫用した違法なものであるとして、被告らに慰謝料20万円の支払いを命じました。

※上告棄却により確定

Follow me!