労働基準法第17条 前借金相殺の禁止
(前借金相殺の禁止) 第十七条 使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。 |
~解説~
⑴ 金銭消費貸借契約と労働契約を完全に分離することによって、使用者が労働者に対して労働を条件にお金を貸すことで身分的拘束が生じ、労働が強制されることを防ぐ目的の規定です。
⑵ 前借金とは、労働契約締結時又はその後に、使用者が労働者に対して、「労働することを条件として」貸し付けて、将来の給与から返済することを約束する金銭のことです。
⑶ 労働することを条件としない純粋な金銭消費貸借によるものや、単なる給与支払日の繰り上げは本条の「前借金」などには当たりません。
⑷ 本条で禁止されているのは使用者の意思による相殺(使用者と労働者の合意によるものも含まれるとされています。)であって、労働者による一方的な相殺は含まれません。もっとも、労働者の意思による相殺なのかは慎重にみるべきでしょう。
⑸ 本条はあくまで「賃金との相殺」を禁止しているのであって、前借自体を禁止しているわけではありません。もっとも、労働者の身体を拘束するような前借金は無効とする裁判例もあります(最判昭30.10.7)。
⑹ 「賃金」の定義については>第11条を参照してください。
⑺ 本条に違反する相殺は無効で、使用者は賃金全額の支払義務を負います。
⑻ 本条違反には罰則があります(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金、119条1号)。