Case487 出張中に上司が部下に飲酒を強要したことや体調が悪い部下に運転を強要したことなどが違法であるとされた事案・ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル(自然退職)事件・東京高判平25.2.27労判1072.5
(事案の概要)
原告労働者は、ホテルを運営する被告会社で営業係長として勤務していました。
原告は、出張先で仕事の反省会も兼ねて営業部次長である被告上司らと居酒屋に行きました。
原告はお酒に弱かったので、グラスを手でふさぎながら「飲めないんです。飲むと吐きますので、今日は勘弁して下さい。」と飲酒を断りましたが、被告上司は「俺の酒は飲めないのか。」などと語気を荒げ、執拗にビールを飲むことを要求しました。原告は、出張中の仕事上のトラブルの件で負い目を感じており断り切れず、ビールを飲んでトイレでおう吐しました。
被告上司は、トイレから戻ってきた原告に対して「酒は吐けば飲めるんだ。」と言って、さらに原告のグラスに酒を注ぎ、ホテルに戻った後も原告にお酒を勧めました(パワハラ1)。
翌日、原告は昨夜の飲酒で体調が悪いといって運転を断りましたが、被告上司は「もう少しで着くから大丈夫だ。」と言って原告に空港までレンタカーを運転させました(パワハラ2)。
原告は、出張後に約1か月間長期欠勤し精神科を受診しました。
また、ある日、被告上司は、原告が業務指示に違反して直帰したことに対して憤慨し、深夜23時頃に原告に対して「まだ銀座です。うらやましい。僕は一度も入学式や卒業式に出たことはありません。」とメールしたうえ、2度にわたって原告の携帯電話に電話し、その留守電に「私、怒りました。明日、私辞表出しますんで。」などと怒りを露にした録音をしました(パワハラ3)。
さらに、ある日、被告上司は、原告と業務上トラブルとなり、深夜23時頃に原告の携帯電話に電話をかけ、その留守電に「辞めろ!辞表を出せ!ぶっ殺すぞ!」と語気を荒くして録音しました(パワハラ4)。
本件は、原告が会社及び被告上司に対して損害賠償請求した事案です。
(判決の要旨)
判決は、パワハラ1について、被告上司は、原告が酒に弱いことに容易に気付いたはずであるのに「酒は吐けば飲めるんだ」などと言い、原告の体調の悪化を気に掛けることなく、再び原告のグラスに酒を注ぐなどしており、これは単なる迷惑行為にとどまらず、不法行為法上も違法であるとしました。
パワハラ2について、たとえ僅かな時間であっても体調の悪い者に自動車を運転させる行為は極めて危険であり、体調が悪いと断っている原告に対し、上司の立場で運転を強要した被告上司の行為は不法行為法上違法であるとしました。
パワハラ3について、留守電やメールの内容や語調、深夜の時間帯であることに加え、被告上司の従前の原告に対する態度に鑑みると、同留守電及びメールは原告に注意を与えることよりも、原告に精神的苦痛を与えることに主眼がおかれたものと評価せざるを得ず、注意を与える目的もあったとしても社会的相当性を欠き不法行為を構成するとしました。
パワハラ4について、経緯を考慮しても不法行為法上違法であることは明らかでその態様も極めて悪質であるとしました。
そして、被告上司には不法行為に基づき、会社には使用者責任に基づき、連帯して慰謝料150万円の支払いを命じました。
※確定