Case512 複数の職場における脱退勧奨等の事実を認めつつ約2万4000人の組合員の脱退について会社の組織的関与を否定した事案・JR東日本(組合脱退勧奨)事件・東京高判令6.4.24

(事案の概要)

⑴ 概要

 原告ら労働者A~Dは、被告JR東日本に駅員や車掌、運転士として勤務しており、東日本旅客鉄道労働組合(JR東労組)東京地方本部(東京地本)の組合員でした。

 JR東労組には平成30年2月の段階で約4万8000人の組合員がいましたが、後述する平成30年春闘(2018年、18春闘)における会社との対立を経て、同年3月21日までに約2万4000人もの組合員が脱退する事態となりました。

 本件は、原告らが、会社に対して、組合員の大量脱退が会社による組織的な脱退工作によるものであるとし、またその一環としてそれぞれ上司らから脱退勧奨などの不当労働行為を受けたと主張し、不法行為又は使用者責任ないし債務不履行に基づき慰謝料の支払を求めた事案です。

⑵ 格差ベア解消に向けた本件争議権の確立と17春闘

 JR東労組は、会社により行われてきた「所定昇給額」を算定基礎とするベースアップによると、職務の違いによってベースアップ額が異なり、職務給の低い若年層等のベースアップ幅が小さくなる、いわゆる「格差ベア」が生じることを問題視し、全組合員一律に昇給させる「定額ベア」を求める方針を有していました。

 平成29年2月10日、JR東労組は、格差ベア解消に限定して本件争議権を確立しました。

 平成29年春闘(2017年、17春闘)の結果、会社は、平成29年は全社員一律定額1000円のベースアップ(定額ベア)を行うものの、翌年以降のベースアップは所定昇給額を算出基礎としてする可能性は否定できないが、所定昇給額を算出基礎とするベースアップにこだわるものではないとしました。

⑶ 18春闘におけるスト闘争

 JR東労組は、平成29年12月21日に開催された中央執行委員会において、格差ベアの根絶を求める争議方針を確認し、中央闘争委員会を設置しました。

 JR東労組は、平成30年1月31日、会社に対し、格差ベアを永久的に実施することなく全組合員一律に昇給させる定額ベアを実施すること、その他の方法によるベースアップを将来にわたって行わないことを求める申入れをしました。

 これに対して、会社は、定額ベア以外の実施方法を将来にわたって行わないとする考えはないと回答しました。

 会社は、平成30年2月6日に行われた団体交渉においても、格差ベア実施の可能性を否定しなかったため、JR東労組は、会社に対し、ストライキ権行使を含めたあらゆる戦術行使に必要な手続に入ると通告しました。JR東労組は、同月9日、本件争議権に基づき、同月28日までに指名ストライキの対象者を選出し、同年3月5日までに当該対象者を中央闘争委員会へ報告する等の本件争議権行使の準備に入る決定をしました。

 平成30年2月12日、産経新聞が、JR東労組が指名ストを含むストライキの実施を検討しており、地域によっては一部列車において運休が発生する可能性があること等を報道しました。

 JR東労組は、平成30年2月16日、会社に対し、平成30年春闘(2018年、18春闘)において、18春闘におけるベースアップは全組合員一律定額ベアとすること、ベースアップを実施する場合、所定昇給額を算出基礎としないことなどの緊急申入れをしました。

 同日、会社は、全事業場の掲示板に、「労使議論を経て「一律定額ベア」となる場合があることは否定しませんが、入社間もない若手と経験値の高いベテランのベアが常に同額でなければならないことは、実質的に公平を欠く結果を招来しうるものであり、また、予測し得ない将来の時々の諸事情を考慮して賃金決定をする柔軟性を、現時点において完全に否定するもので、会社は到底認めることはできません。」「ストライキは、通勤・通学をはじめ、会社発足以来、会社発展にご理解ご支援を賜ってきた大勢のお客さまに多大なご迷惑とご心配をおかけするものです。会社としては、組合によく理解を求めるべく、引き続き組合と賃金のあり方にかかる議論を徹底的に行い、お客さまに決してご迷惑をおかけすることのないよう全力を尽くしてまいります。」などと記載した「社員の皆さんへ」と題する社長名の書面を掲示し、JR東労組に対しても同旨の回答をしました。

 さらに、社長を筆頭とした会社役員が、平成30年2月13日から同年3月19日にかけて、のべ250か所以上の職場を巡回し、現場の従業員らに会社の考え方を説明したり、管理者と面談しました。そのうち、平成30年2月22日及び同月26日の社長らの大崎運輸区の管理者との面談については録音が残っていました。

 JR東労組の執行部は、会社からの平成30年2月16日にされた回答について、17春闘の結果から後退したものであると考え、また、東京地本においては、同月17日、格差ベアの永久的根絶を勝ち取るために全組合員で戦い抜く旨の特別決議をしました。

 JR東労組は、平成30年2月19日、会社に対し、同年3月2日0時から、格差ベアに関する解決に至るまで、東京支社に所属する組合員が従事する一部の職場において、箇所長及び助役を除いた全組合員による非協力という争議行為をする旨予告するとともに、その旨を組合員に周知しました。一方、同日、JR東労組は、厚生労働大臣に対し、助役を除く全組合員による本来業務以外の自己啓発活動等に対する非協力による争議行為を実施すること、これにより列車運行に支障をきたすことはないことを明記した争議行為の予告通知をしました。東京地本は、同日、組合員向けに「勤務時間外の自己啓発活動には応じない」と記載したビラを配布し、会社もこれを認識していました。

 会社は、平成30年2月20日、JR東労組に対して、争議行為中止を申し入れるとともに、全事業場の掲示板に、「争議行為を行うかどうかは労働組合の判断であり、会社として介入するものではありません。しかしながら、今回、争議行為に入ろうとしていることは、国鉄時代の反省を踏まえ、会社発足以降、「自主自立」「お客さま第一」「地域密着」を経営の原点に据え、全社員一丸となって「鉄道の再生・復権」に取り組んできた当社のこれまでの歩みから、大きく逸脱し、かつ団体交渉による解決を軽視するものであり、極めて遺憾と言わざるを得ません。」「本件に関する会社の見解については、2月16日より掲示した「社員の皆さんへ」で既にお伝えしているところですが、そもそもベアは、生産性向上への社員の貢献に対する配分であり、それに加えて物価上昇を踏まえた生活保障を基本的な考慮要素として、これにベテラン或いは若手への重点配分などの時々の社会状況に応じた施策的要素を加味し、毎年度の経営状況を勘案して、労使間の議論を経て決定するもので、将来にわたってベアの実施方法を確約することなどはあり得ないことであり、引き続き、組合と解決に向けた真摯な議論を継続していく考えに変わりはありません。」「争議行為の実施は、特に首都圏を中心とする通勤・通学をはじめ、会社発足以来、会社発展にご理解とご支援を賜ってきた大勢のお客様に多大なご迷惑とご心配をお掛けするものです。会社としては、お客さまに決してご迷惑をおかけすることのないよう、そしてこれまで築き上げた社会からの信頼を損なうことのないよう、業務の正常な運営を確保する決意でありますので、社員の皆さんのご理解とご協力をお願いいたします。」などと記載した「社員の皆さんへ」と題する社長名の書面を掲示しました。

 会社は、平成30年2月23日の団体交渉において、JR東労組の「ベースアップを実施する場合、所定昇給額を算出基礎としないこと」との申入れに対して、「所定昇給額による方法は、この間、いわゆるベースアップに職責を反映させるための手法として用いてきた経緯はあるが、会社としてはこれにこだわるものではなく、賃金カーブ上の課題等も勘案の上、毎年度、労使で真摯な議論を行い決定する。」などと回答しました。

 これを受けて、同日、JR東労組は、「格差ベア永久根絶!18春闘勝利」と掲げ、会社と団体交渉を行い、ベースアップの実施に当たって、その算出基礎を所定昇給額にこだわらないことを確認したなどと記載したビラを公開しました。

 また、平成30年2月24日、JR東労組は争議行為の予告を解除しました。

 会社は、平成30年2月25日、「ベアにかかる会社の主張は、『ベアは、生産性向上の成果配分を基本として、職責、職能、資格・等級、年齢並びに物価等や様々な施策的要素を勘案して、毎年度、経営状況等を踏まえた労使協議において決定される』という柔軟なものであります。」「組合は、今回のベア問題に関する会社の上記主張を承知しながら、明らかに事実に反する見解を喧伝し、また、組合の主張を貫徹するため、団体交渉が尽くされていない段階において、争議行為に訴えることを機関決定し、具体的に指令したことにより、会社発足以来30年間労使で維持してきた「労使共同宣言」の趣旨・精神を一方的に否定し、その有効性の基礎である信頼関係を失わせた状況を招来したものといわざるを得ません。」「会社は、このような認識に立ち、今後の組合との労使関係において、業務改革と生産性の向上をはじめとした様々な課題について建設的かつ時間軸を意識した議論を求めるとともに何事にも是々非々の対応をしていく考えであります。」「以上について、社員の皆さんのご理解とご協力を期待します。」と記載した社長名の「社員の皆さんへ③」と題する書面を発表しました。

 会社とJR東労組との間には、会社が発足した昭和62年、労使関係の在り方について①会社の繁栄発展を共通目標とし、労使相協力する健全な関係を築くこと、②労使は、なによりも安定安全輸送に専念し、将来にわたってより良い労働条件の実現を図ること、③労使間の問題の処理にあたっては、いかなる場合も労使双方信義誠実の原則に従い、経営協議会の場を最大限に活用し、あくまで平和裡に労使間の話し合いにおいて自主解決を図ることを合意した「労使共同宣言」が存在していました。会社は、平成30年2月26日の団体交渉において、JR東労組が事実に反する労使間の交渉内容に係る見解を喧伝したなどとして、会社発足以来の労使共同宣言が失効したと通知しました。 

⑷ 組合員の大量脱退

前述したように、JR東労組には平成30年2月の段階で約4万8000人の組合員がいましたが、18春闘における会社との対立を経て、同年3月21日までに約2万4000人もの組合員が脱退する事態となりました。

原告らは、組合員の大量脱退が会社による組織的な脱退工作によるものであると考えました。

その根拠として、⑴会社が社内に度重なる掲示をし、JR東労組の活動を非難していたこと、⑵社長等が頻回にわたって職場巡回・訓示をしたこと、⑶社長が職場巡回の際にJR東労組からの脱退者数を確認していたこと、⑷実際に複数の職場で管理者からJR東労組組合員への脱退勧奨等の不当労働行為が行われていること、を主張しました。

⑴について、平成30年2月26日の社長らの大崎運輸区への職場巡回の際の録音において、総務部長が、管理者に対して「社員の皆さんへの類は、本社もバンバン出しているので。まあ、組合の言っていることは全部嘘だということを分かるような社員の皆さんへにしていますので、ま、活用して、しっかり話してもらえればいいと思います。」と発言していました。また、社長が、「そこはもう、ああ、これからですよ、時間をかけてやっていかないと。ようするに、会社の考え方とかをよく理解してもらうことですよ。組合の情報ばっかり、ね。掲示は出してくれたんだろ、会社の考え方。」と発言していました。

 ⑶について、平成30年2月22日及び同月26日の社長らの大崎運輸区への職場巡回において、社長らが管理者に対してJR東労組からの脱退状況の確認する様子が録音されていました。

⑷について、蒲田駅の駅長が、会社に対して、組合役員から平成30年2月19日頃の自身の組合員に対する脱退勧奨について抗議を受けたことを詳細に報告し、JR東労組からの脱退者の人数について「脱退者25名変わらず」としたうえ、「個別に何名かに話をしますので今回のような話にならないよう気を付けます。」とする報告文書が残っていました。

⑸ 原告Aの主張

ア 本件行為①

原告Aは、総務部長が現場の朝礼に参加し、JR東労組を批判する訓示をしたことは支配介入の不当労働行為に当たると主張しました。

 総務部長は、スト予告が解除された後の平成30年2月28日、柏駅の朝礼に出席し、原告Aらに対して、JR東労組がストの予告通知という抜いてはいけない刀を抜き、労使共同宣言を踏みにじったため、会社としては、労使共同宣言は地に落ちて失効し、30年間培ってきた労使関係はなくなったものと考えていること、トラブルが発生した場合には、弁護士や警備会社、警察とも連携して職場秩序を維持していくことなどを述べました。

イ 本件行為②

 原告Aは、駅長らが、原告A不在の懇親会の席上で、JR東労組支部書記長として活動していた原告Aを馬鹿にする発言を繰り返して揶揄し、原告Aの悪評を吹聴したことは支配介入の不当労働行為に当たると主張しました。

 平成30年3月28日の懇親会において、柏駅駅長は、出席していたJR東労組組合員に対して「で、大丈夫?気持ちは固まった?」「盗聴器とかもってない?原告Aにメールしろよ。」「お前らの将来に関わる事だと思うよ。……どっちに行くか?」などと述べ、副駅長は「会社の判断と組合の判断があるだけだから、単純な話だよ。単純な話。」「オレは強制強要みたいな顔してますよ」「ビラに書いとけよ!原告Aに言って。副駅は強制強要しているような顔してるって!メール流しちゃえよ!」「情報共有したほうがいいよ!」などと述べ、その内容を組合員が録音していました。

⑹ 原告Bの主張

ア 本件行為③

 原告Bは、社会人採用社員セミナーにおいて、駅長がJR東労組に言及したことは支配介入の不当労働行為に当たると主張しました。

 会社は、平成30年3月20日、23日、28日、29日及び30日に、東京駅在籍の社会人採用社員全員を対象とした社会人採用社員セミナーを行いました。原告Bは29日のセミナーに参加しましたが、そこで駅長は、社員らに対して、セミナーは会社と組合の双方の考え方を聞いて、自らの判断材料にしてもらうために開催された旨述べ、また、JR東労組との労使共同宣言が失効したのは、JR東労組が、労使間協議を行ってきた状況において事実と反する交渉内容を喧伝したこと及び労使間協議を行っているにもかかわらず争議行為を予告したことの2点が原因であるなどと述べました。

イ 本件行為④

 原告Bは、上記セミナーにおける助役の発言も支配介入の不当労働行為に当たると主張しました。

 助役は、上記セミナーにおいて、JR東労組との労使共同宣言について「もう同じ方向向けねーよなということであの紙は紙くずとなった」として、会社経営陣は、今後、いかなる組合とも労使共同宣言を結ぶことはないと決めたと述べました。

⑺ 原告Cの主張

ア 本件行為⑤

 原告Cは、会社がJR東労組主催の行事への不参加を呼びかけたことが支配介入の不当労働行為に当たると主張しました。

 平成30年上野駅配属の新入社員15名で構成されたグループLINEに、助役からの伝言として「7月のBBQや旅行のお誘いは注意を!!7/9と10は会社の公認のBBQです!!何かあったら遠慮せずに相談を」「7月の上旬のマグロツアーは、要注意で!変な勉強会や会合にも要注意ですよ。サービス勉強会・CS勉強会以外の勉強会はありませんので!!実際は、組合の青年部の勉強会だったりするので、即答せずにね!!とのことです。引き続き組合活動には気をつけて。」「『6月のお誘いが活発ですので、要注意で!くどいようですが、即答せず、予定を確認しますと、乗りきろう!』とのこと!」「以下、助役より伝言です。『今朝、明け番の新入社員を狙って、勧誘の飲み会の動きがありました。……次は、各々一本立ちした頃が、狙われますので、要注意です!!』とのこと。組合に引き込まれないよう気をつけてね」「以下、助役からの注意喚起です。最近また組合が少し動きを見せているそうです。9/19の組合野球のお誘いには、注意しましょう!組合を全面に出さずに、『飲み会だけどう?』の誘いが始まりました。〔組合員名〕、〔組合員名〕が中心となり声をかけていますので、注意を!」「レクなら問題ないけど、オール組合員なら要注意的な声かけられたりしたら助役にご相談を!」という投稿がなされました。

イ 本件行為⑥

 原告Cは、上野駅の過半数代表者であり、平成30年5月の過半数代表者選挙にも立候補していたところ、A助役が非組合員であることを理由にB助役に投票するよう周囲に依頼したことが支配介入の不当労働行為に当たると主張しました。

 A助役は、非組合員であるB助役に投票するよう呼び掛けており、新入社員の中にも、A助役から、B助役に投票してほしい旨依頼され、その旨を新入社員のグループLINEに投稿した者がいました。

ウ 本件行為⑦

 原告Cは、A助役が企画したバスツアーに原告Cを参加させなかったことは、JR東労組分会長であった原告Cを差別するものであり支配介入の不当労働行為に当たると主張しました。

 A助役は、平成30年9月、上野駅の出札・改札業務に従事する従業員を対象とし、従業員同士の親睦を目的とした任意参加のバスツアーを企画しました。上野駅の出札業務を行っていた原告Cは、A助役に対してバスツアーの参加を表明しましたが、満席であるとして参加を断られました。

⑻ 原告Dの主張

 原告Dは、懇親会の席上で上司である大崎運輸区長(C区長)及び元上司である品川地区指導センター所長(D所長)から脱退勧奨やJR東労組を一方的に批判する発言を受けたことは、支配介入の不当労働行為に当たると主張しました。

 平成30年11月20日、品川地区サービス品質研究会の活動報告会が開催され、同日午後6時から会社の会費負担で懇親会が行われました。

 懇親会の席上において、C区長及びD所長は、原告Dに対して、「おまえが必要だ。おまえの力を貸してくれ。」と持ち上げつつ、「まだ組合をやめないのか」「早くやめろよ」「転勤希望があれば、組合をやめていないと出せない」などとJR東労組から脱退するよう20回以上にわたって繰り返し述べました。原告Dは、JR東労組を脱退しないという考えは変わらないと回答しましたが、二次会においてもC区長からJR東労組を脱退するよう言われました。

 原告Dは、翌21日、C区長に対して、不当労働行為が過ぎる旨を抗議しました。懇親会に出席していた社員は、原告Dに対して、「昨日のはさすがに露骨でしたね」「抜けても抜けなくても面倒だなと思いました」とメッセージを送りました。

 原告Dは、懇親会以降、上司であるC区長と話ができなくなってしまいました。

(判決の要旨)

1 組織的な脱退勧奨の有無について

 判決は、原告らの主張に対して、以下のとおり述べて、会社による組織的な脱退勧奨の事実を否定しました。

⑴ 会社による度重なる掲示について

 判決は、会社がした社内掲示(「社員の皆さんへ」)は、いずれもベースアップについての会社としての考えを明らかにしたものにすぎず、JR東労組の評価を下げるような、虚偽や事実を歪曲した記載もないから、これが会社による組織的な脱退勧奨であったと評価することはできないとしました。

⑵ 社長等による頻回な職場巡回・訓示について

 判決は、JR東労組がスト権行使のための準備に入っている状況において、社長等が現場を訪問し、ベースアップについての会社の考え方等を従業員に直接説明することは、何ら不合理ではないから、役員による職場巡回を会社による組織的な脱退勧奨であったと評価することはできないとしました。

⑶ 社長による脱退者数の確認について

 判決は、録音内容から、平成30年2月22日及び同月26日に、社長らが職場を巡回しJR東労組からの脱退状況を確認した事実を認めました。

 しかし、判決は、社長らは三六協定を締結する必要があるためにJR東労組の加入者数が労働者の過半数となるかを確認していただけだという会社の主張を採用し、社長らがJR東労組からの脱退者数を確認していたとしても脱退勧奨に組織的な関与があったとはいえないとしました。

⑷ 複数の職場における脱退勧奨について

 判決は、①平成30年2月19日頃の蒲田駅における駅長から組合員に対する脱退勧奨、②平成30年3月14日頃の水戸電力技術センターにおける副所長から組合員に対する脱退勧奨について、脱退勧奨がされた可能性は高いものの会社の組織的な活動とまでは認められないとしました。③平成30年11月11日のジェイアールバス関東(JR東日本の100%子会社)における支店長から組合員に対する脱退勧奨についても、事実は認めつつ、別法人の事案であり、これにより会社が組織的な脱退勧奨を行っているものとまでは認められないとしました。④平成30年11月20日の大崎運輸区における区長らによる原告Dに対する脱退勧奨についても、脱退勧奨の事実は認められるが、その一事をもって会社が組織的な脱退勧奨を行っているとまでは認めることはできないとしました。

2 原告Aについて

⑴ 本件行為①

 判決は、役員間である程度のすり合わせをしたであろう訓示には、JR東労組に対して悪感情を抱いていることをうかがわせる表現があったことは否定できないが、発言が虚偽であるとか、事実を歪曲して吹聴してJR東労組を批判したものとは評価できないなどとして、不当労働行為には当たらないとしました。

⑵ 本件行為②

 判決は、副駅長は、JR東労組組合員に対し、会社の主張と組合の主張を読んで自分で判断するように述べ、自らの発言を原告Aに言いつけてはどうかと勧めるなど、やや挑発的であると評価することはできるとしても、原告A自身を揶揄したり、原告Aに対する悪評等を吹聴したものとは評価できず、不当労働行為に該当しないとしました。

3 原告Bについて

⑴ 本件行為③

 判決は、駅長が、労使共同宣言を失効させた原因が、JR東労組が事実と反する見解を喧伝したことにあると述べた点については、会社の認識を表明したにすぎないとしました。

⑵ 本件行為④

 判決は、助役が、労使共同宣言が「紙くず」になったとの不穏当な表現をしたことについても、労使共同宣言が失効したことを言いかえたものに過ぎず、支配介入には当たらないとしました。

4 原告Cについて

⑴ 本件行為⑤

 判決は、助役のメッセージが、新入社員に対して、JR東労組の開催する行事に参加することを委縮させる効果を生じさせたことは否定できないが、JR東労組の企画する行事へ参加しないよう指示しているわけではないなどとして、支配介入には当たらないとしました。

⑵ 本件行為⑥

 判決は、選挙権を有するA助役が特定人を応援することには特段の問題はないとして、支配介入には当たらないとしました。

⑶ 本件行為⑦

 判決は、仮に原告Cが主張する事実があったとしても、バスツアーはあくまでも業務外の任意参加のレクリエーションであること、参加者の中にはJR東労組組合員もいたことなどから、支配介入には当たらないとしました。

5 原告Dについて(本件行為⑧)

 判決は、本件脱退勧奨は、原告Dが明示的に拒絶しているにもかかわらず、複数人により、複数回にわたって直接的にJR東労組を脱退するよう求めるものであり、その具体的な態様、回数、内容等に照らすと、JR東労組への支配介入に当たり、社会的相当性を逸脱して精神的苦痛を与えるものといえ、C区長及びD所長の原告Dに対する不法行為に当たるとしました。

 そして、本件懇親会は、研究会での発表を慰労するために会社の負担で開催されたものであって、同研究会の出席者は本件懇親会に全員出席し、時間的にも場所的にも業務に接着して行われたことからすれば、本件懇親会への出席は「業務の執行に関して」されたものであり、そこでされた本件脱退勧奨も、「業務の執行に関して」されたというべきであるとして、会社の使用者責任を認め、会社に慰謝料5万円の支払を命じました。

※確定

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