Case541 税理士会支部の役職者による事務員に対する同意のない性的行為及び支部の事後対応が不法行為に当たるとされた事案・東京税理士会神田支部ほか事件・東京高判令6.2.22労判1314.48

(事案の概要)

 原告労働者(女性)は、東京税理士会の被告支部で事務局職員として働いていました。

 原告は、被告支部に所属する被告部長(税理士、男性)の誘いで、2人で居酒屋で飲食した後、被告部長の事務所に行きました。被告部長の事務所で、被告部長は、原告にキスをし、原告の乳首や陰部を触ったりした後、ズボンを脱いで下半身を露出し、原告に対して陰茎を舐めるよう求めましたが、原告はこれを拒否しました。原告は、その日、被告支部の研修部長に対して、被告部長から性的暴行を受けた旨を話しました。

 翌日、原告は有給休暇を取得しました。被告部長は、原告に対して、休暇の理由について「俺が悪戯したから?」とメッセージを送り、その後削除しました。

 原告は、翌月には被告支部の支部長に対して、被告部長から性的暴行を受けた旨を相談し、また、PTSDと診断され被告支部を休職しました。

 その後、原告は、被告支部の役員らと復職面談をしましたが、復職面談において役員らは、復職を希望する原告に対して、原告が弁護士に依頼して被告支部に対しても責任を訴えていることについて「どれだけあなたのことを、カバーしたかって、わかってらっしゃいますよね。」「支部に対してこういうものが来るというのは、正直言って僕は心外なんです。」と責め、「復職したときに、嫌な態度をあなたにね、したりとか、知っている人とかで、嫌な風に感じちゃうことがあるかもしれないけど平気?」「支部を訴えたんだって、とか言われちゃったりしたら、えーそんな人なの?というふうに言ってくる人もいるかもしれないじゃない。言わなくても態度で示してくる人もいるかもしれないじゃない。あのー、いたたまれなくなっちゃうんじゃないかなと。」「大丈夫?なんか態度で示されちゃっても、前と同じように仕事できる?」「今後、あれだよ、相談するのはさ、弁護士さんじゃなくてさあ、支部の人にした方がいいよ。」「本当に支部に優しくしてくれた方が、と思うんだけどなあ。」「正直言うけどさ、何かやっぱりまだちょっと信じられないっていうかさ、何でこんな訴えたりして戻ってこれるのかなって正直思っちゃうよね。」「支部を預かっている以上は、支部として訴えを起こされたら、支部として闘わなきゃいけないんだよ。」「だから、それを取り下げてくれるっていうのであれば、話は置くけれども。でも、もしそのまま続くんだったら、やっぱり敵対関係にあるのと同じだからね。そんなんで雇用関係なんてそんなのできるわけないじゃない、どう考えたって。」などと述べました。

 そのうえで、役員は、原告に対して「こんな話を聞いて、たぶん嫌な思いをしちゃったでしょうから、もう一回お医者さんとかからね、こんな酷いことを言われても大丈夫っていう診断書もらって来てよ。」「だって、こっちがさ、せっかく戻ってきてもらったのに、対応がそれでまたさ、調子悪くなっちゃったら、申し訳ないし。また本当に魅力的だから、誘われちゃうことだっていっぱいあるかもしれないし、それでも大丈夫、みたいなさ。」と要求しました。

 その後、原告は体調が悪化し、復職することができず被告支部から解雇されました。

 本件は、原告が、被告部長及び被告支部に対して損害賠償請求等をした事案です。

 これに対して、被告部長は、原告が行った提訴記者会見が名誉毀損に当たるとして損害賠償請求の反訴を提起しました。

(判決の要旨)

1 被告部長の責任

 判決は、原告と被告部長の供述には相反する内容も多いものの、被告部長が、原告からの明示的な同意も拒否もない中で、原告にキスをし、原告の乳首と陰部に触った点と、その後被告部長が原告に自己の陰茎をなめるよう求めたが、原告がこれを拒否したところ、それ以上の行為には及ばなかった点では一致しており、これらの点は真実に合致するものと認めることができるとしました。

 また、被告部長が、性的同意について、嫌だと言いながら実はやりたい人も世の中にはおり、一連の流れで最初に許可があれば拒否されない限り行為を続け、改めて同意を確認するまでもなく性交に進むという考えである旨述べていることから、原告の拒否は相当強いものであったことが推認されるとしました。

 そして、原告が行為の直後から一貫して被告部長から性的暴行を受けた旨主張していること、PTSDと診断され休職に至っていること、被告部長が「俺が悪戯したから?」というメッセージを送っていること、原告が被告部長に対して異性として関心を抱いていたとはいえないことなどから、一連の性的行為は、原告においては、支部役員である税理士と支部事務職の職員という関係を意識して、被告部長の言動に対してあからさまに拒絶的な態度をとることを当初控えていたものの、被告部長と性的行為に及ぶことを期待も受容もしていなかったのに、被告部長において、原告に対し性的関心を抱き、性交まで進む意図の下に、徐々に性的行為をエスカレートさせていく形で、一方的に行ったものであると推認され、全体として、同意のない性的行為であったとの評価を免れないとしました。

 判決は、被告部長に対して、同意のない性的行為により原告の人格権を侵害したことについて、不法行為責任を負うとして、慰謝料200万円を含む合計約357万円の損害賠償を命じました。

2 被告支部の責任

 判決は、復職面談において、被告支部の役員らが、原告に精神的圧迫を与えかねない状況の下で、復職の可否判断に必要な事実確認を行うという本来の目的からは逸脱して、原告に対する否定的な感情をこもごも吐露し、それ自体ハラスメントに当たるといわざるを得ない言動をしたことは、原告に対する人格権侵害に当たるというべきであるとし、被告支部の不法行為責任を認め、慰謝料50万の支払を命じました。

3 被告部長の反訴

 判決は、専門職団体である被告支部の被告部長がその事務局職員に性的暴行を行ったとの事実は、社会の正当な関心が寄せられる公共の利害に関する事実であり、その発表は公益を図る目的で行われたものと認められ、発表された内容は真実であるとして、記者会見の違法性を阻却し、被告部長の反訴請求を棄却しました。

※上告・上告受理申立

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