Case547 労働者の疾病は双極性障害であったとしてうつ病を前提に症状固定とした労災不支給決定が取り消された事案・国・土浦労基署長(大東建物管理)事件・東京高判令6.1.31労判1316号22頁
(事案の概要)
原告労働者は、平成24年9月、平成20年6月頃に業務に起因して軽症うつ病エピソードを発病していたとして労災認定を受けました。平成25年3月、原告のA主治医は、原告について「うつ病」と診断しました。
平成30年4月、労基署職員がA主治医と面談したところ、A主治医は原告について平成31年3月末頃の症状固定を予定する旨回答しました。また、平成31年3月、A主治医は労基署に対して「平成31年3月末をもって症状固定とする」との意見を提出しました。
原告が、平成31年2月から4月にかけての休業補償給付の請求をしたところ、労基署は、原告の精神障害が同年3月31日をもって治癒(症状固定)したとして、同年4月分について休業補償給付をしない旨の本件処分をしました。審査請求及び再審査請求も棄却されました。
原告は、令和元年9月からB主治医の診療を受けるようになり、B主治医は原告について双極性障害も視野に入れて治療を行ったところ症状に改善が見られました。B主治医は、令和2年8月に原告について「双極Ⅱ型障害」と診断しました。また、B主治医は、令和4年12月、診断基準であるDSM-5に照らし、平成31年3月31日頃における原告の疾病は双極性障害であったとする意見書を作成しました。
C医師も、令和5年8月、診断基準ICD-10DCRに照らして原告の病名は双極性感情障害であるとする意見書を作成しました。
本件は、原告が、原告の疾病はうつ病ではなく双極性障害であったから平成31年3月31日を症状固定としたのは誤りであると主張して、本件処分の取消しを求めた事案です。
(判決の要旨)
判決は、B主治医及びC医師の意見書等から、平成31年3月31日当時の原告の疾病は双極性障害であったとしました。
また、原告がA主治医から受けていた治療は抗うつ薬と抗不安薬を組み合わせるという、うつ病を前提としたものであったところ、これは双極性障害に対する治療としては不適切なものであり、かえって病態を悪化させるおそれのあるものであったこと、原告が令和元年9月以降B主治医にもとで双極性障害を前提とした治療を受けたところその病状が顕著に改善していることから、平成31年3月31日時点で、医学上一般に認められた治療を行ってもその効果が期待し得ない状態となったとはいえず、同日時点で治癒(症状固定)していたとしてされた本件処分は違法であるとして、本件処分を取り消しました。
※確定