Case560 同僚を怒鳴りつけたことが自招行為に当たらないとして同僚から受けた暴行による負傷について業務起因性を認めた事案・国・向島労基署長事件・東京地判令6.1.24労経速2561.33
(事案の概要)
労災不支給決定に対する取消訴訟です。
トレーラーの運転手である原告労働者は、乗務を終えて駐車場に車両を駐車して降車したところ、後から隣に駐車しようとした同僚Aに対して「コラー」「あぶねーだろうがよ」等と怒鳴りつけました。原告とAは言い合いとなり、原告はAから胸倉を掴まれるなどの暴行を受け、頸部、胸部挫傷により約2週間の経過観察を要する見込みとの診断を受けました。
原告は、労基署に労災申請しましたが、労基署は本件負傷は原告の自招行為によるものであり、本件負傷と業務との間に相当因果関係が認められないとして不支給決定をし、審査請求及び再審査請求も棄却されました。
(判決の要旨)
判決は、労働者が業務中に同僚からの暴行によって負傷した場合には、一般的に複数名が就労する職場内における対人関係に起因するトラブルが稀ではないことを考慮すれば、本件負傷は、通常、労働者の業務に内在又は随伴する危険が現実化したものと評価することができ、したがって、暴行が、行為者の指摘怨恨に基づくものである場合や、自招行為によるものである場合等、明らかに業務に起因しないものである場合を除き、暴行による負傷は、業務に起因する負傷であると認めるのが相当であるとしました。
そして、原告はAの車両の後方におり、そこはAにとって死角となる位置にあったと認めることができるから、原告においては、危険を回避するために同僚Aに対して注意喚起する必要があったとしました。また、原告はAを「コラー」と怒鳴りつけており、粗暴であって適切さを欠く言葉ではあるが、少なくとも、当該状況において、本件暴行を自招するような行為であったと評価することはできないとして、業務起因性を認めました。