Case567 始業前の体操の労働時間性を認め給与からの寮費の控除を違法とした事案・ナルシマ事件・東京地判令3.10.14労判1320.70

(事案の概要)

 外国人労働者である原告らが、被告会社に対して残業代等を請求した事案です。

 原告らの始業時刻は午前9時とされていましたが、会社作成のスケジュール書面には、1日のスケジュールとして、8時40分にタイムカードを押し、8時45分に出社し、8時50分からは体操に参加し、9時から業務を開始する旨記載されており、体操の時間が労働時間に当たるかが問題となりました。

 1年単位の変形労働時間制の有効性も争点となりました。

 また、原告らの給与からは月額6万円の寮費が控除されており、原告らは控除された給与の一部についても会社に請求しました。原告らが署名した本件契約書には、「渡航費用、アパート代、光熱費、保険、事務手数料は、会社が立替をする。」「給料と会社で立替費用の合計が毎月の給料となる。合計18万円となる」「月給料6万円とする。」と記載されていましたが、実際に控除されていたのは寮費の6万円のみでした。

(判決の要旨)

1 実労働時間

 判決は、原告らは会社による労働時間に関する説明を踏まえて、スケジュール書面に沿って行動していたものと認められ、8時50分から開始される体操も同書面上1日のスケジュールとして組み込まれていることからすれば、同体操は、会社の指示を受けて行った業務の準備行為であるといえ、体操の時間は、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価するのが相当であるとし、体操時間の労働時間性を認めました。

2 変形労働時間制

 判決は、労使協定に係る過半数代表者の選出手続きが適法に行われたと認めるに足りる証拠はないとして、変形労働時間制を無効としました。

3 寮費控除の適法性

 判決は、賃金から寮費を控除するためには、労基法24条1項ただし書の要件(過半数代表との協定)を満たす必要があるが、労働者がその自由な意思に基づき賃金からの控除に同意した場合においては、その同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、同意を得てした控除は同項本文に違反するものとはいえないとしました。

 そして、労使協定に係る過半数代表者の選出手続きが適法に行われたと認めるに足りる証拠はないとして、労基法24条1項ただし書の要件を満たしているとはいえないとしました。

 また、会社は、原告らに対し、寮費の内容及び寮費を控除する必要性等について一貫した明確な説明をしていないし、そのため、原告らも、寮費の内容及び寮費を控除する必要性等について十分に理解していたとはいえず、本件契約書に原告らが署名していたからといって、会社が主張する各種費用が含まれる寮費の控除について、原告らが自由な意思に基づいて同意していたとは認められないとし、控除を違法としました。

※控訴後和解

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