【解雇事件マニュアル】Q65採用内定とは何か

 旧来の新卒採用の過程では、使用者による採用募集、これに対する労働者の応募、使用者による選考を経て、使用者から労働者に対して採用内定通知が交付され、入社日(辞令の交付)に至るのが一般的であった。このように、実際の入社日よりも前に採用内定という段階が設けられ、その法的性質が問題になることがある。

 大日本印刷事件・最二小判昭54.7.20労判323号19頁は、上記のような新卒採用の事案において、使用者から採用内定通知のほかに労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかったことを考慮すると、使用者からの募集(申込みの誘引)に対し、労働者が応募したのは、労働契約の申込みであり、これに対する使用者からの採用内定通知は、右申込みに対する承諾であって、労働者の誓約書の提出とあいまって、これにより、使用者と労働者との間に、労働者の就労の始期を大学卒業直後とし、それまでの間、誓約書記載の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したとする原判決の判断を是認した。電電公社近畿電通局事件・最二小判昭55.5.30労判342号16頁も、同様の新卒採用の事案において、使用者から労働者に交付された採用通知に、採用の日、配属先、採用職種及び身分が具体的に明示されており、右採用通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかったことから、労働者が使用者からの社員公募に応募したのは、労働契約の申込みであり、これに対する使用者からの右採用通知は、右申込みに対する承諾であって、これにより、労働者と使用者との間に、いわゆる採用内定の一態様として、労働契約の効力発生の始期を右採用通知に明示された日とする労働契約が成立したとした。これらの判例は、当該事案における採用内定の性質を、始期付解約権留保付労働契約としたと解されている。

 もっとも、採用内定の実態は、事案により様々であり、採用内定が始期付解約権留保付労働契約に当たるかどうかは、当該事案の事情から採用内定時に労働契約が成立したといえるか否かを個別具体的に判断するしかない。

 採用内定の法的性質は、採用内定後、入社日より前に使用者により採用内定が取り消される内定取消しが行われた場合に問題となる。採用内定が労働契約に当たる場合には、使用者による内定取消しは、留保された解約権の行使、すなわち解雇に当たるため、解雇権濫用法理(労契法16条)などの解雇規制が適用される。

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