Case572 口座制を採用するホステスについて考慮要素に従って労働者性を認めた事案・クラブ「イシカワ」(入店契約)事件・大阪地判平17.8.26労判903.83

(事案の概要)

 原告労働者は、被告と本件入店契約1を締結し、被告が経営する本件クラブでホステスとして稼働していました。原告は、一度退店し、再度被告と本件入店契約2を締結しました。

 被告は、原告に対して、本件入店契約2を解約する旨通知しました。

 また、被告は、遅刻、同伴義務違反、点呼欠席、4日以上の欠勤、ノルマ達成義務違反などの名目で、原告の賃金を控除していました。

 本件は、原告が、本件入店契約が労働契約に該当するとして、被告に対して解雇予告手当及び未払賃金の支払いを求めた事案です。

(判決の要旨)

1 労働者性

 判決は、以下の判断要素を挙げて、原告の労働者性を認めました。

⑴ 諾否の自由

 時期により週に3日~5日クラブに出ることが義務づけられており、欠勤屋遅刻に対してはペナルティが課せられていた。1か月に4回同伴しなければならない同伴義務があり、これを履行できなかった場合は、1回につき日給半日分をペナルティとしていた。同伴義務が課せられているにもかかわらず、接客サービスを提供しない自由があるとは考えられず、仕事依頼の諾否の自由がなかった。

⑵ 指揮監督の有無

 売上計上を増やすよう指示されただけで指揮監督があったということは困難である。また、実際の接客サービスの提供においては、個々のホステスの接客術に委ねられている面は大きい。しかし、接客サービスの提供の内容というのは、自ずと決まっており、原告が被告からその遂行を求められることは当然というべき。しかも、毎月21日、点呼が実施されており、顧客に関する情報の提供や交換、その他重要な事項等が伝達されており、これらの機会を通じ、指揮監督がなされていたといえる。

⑶ 拘束性の有無

 本件入店契約では、勤務場所、勤務時間、勤務日が定められており、入店時刻については、タイムカードで管理がなされており、遅刻したり、欠勤した場合には、ペナルティが課せられることとなっており、拘束性を有していた。ペナルティが合意に基づくものであったとしても、その結果、拘束の効果を有することには変わりない。

⑷ 代替性の有無

 少なくとも、原告に支障がある場合、他の者が代わりに店に出ようとした場合に、これを被告が承諾しなければならないような関係にないことは明らかであり、代替性があるとはいえない。むしろ、本件のようなホステスとクラブの契約の場合、契約の成否は、当該ホステスの個人的な要素に負うところが極めて高く、代替性のない労務ということができる。

⑸ 報酬の労務対償性

 原告の報酬は主体は日給からなり、1日出勤すれば原則として日給3万円は保証されており、売上小計が多ければ、加算される(なお、売上小計額は目標であると考えるのが相当である。)。以上によると、原告の報酬について労務対償性を認めることができる。

⑹ 事業者性の有無

ア 費用負担

 什器備品類の費用、店舗賃料、スタッフの給与、顧客の飲食に供する飲食物の仕入れにかかる費用は被告が負担している。なお、接客に際して着用する衣服の費用を原告が負担しており、これが高価なものであることが窺われるが、被告の負担している上記各費用が、本件クラブの営業において必須のものであることに比べると、衣服の費用が高額であることを理由に、原告に事業者性を認めることはできない。

イ 報酬

 時給7000円以上となり高額というべきであるが、事業者性を認めなければならない程度に高額ということはできない。

⑺ 専属性の程度

 原告が、同じ種類のクラブに、自己の勤務時間帯に勤務すること自体はあり得ず、また、自己の勤務時間外に、他の業務に従事することは可能であるとしても、そのことのみによって専属性を否定することはできない。

⑻ その他

ア 口座制

 本件クラブでは、口座制が採用され、特定の顧客が特定のホステスの口座客となると、顧客は、本件クラブにおいて、そのホステスの接客サービスを受けた場合、ホステスチャージをそのホステスに支払うことになっていた。口座客については、特定のホステスによる接客サービスを受けることを主たる目的としてはいるものの、クラブにおける一体となった接客サービスのなかで、特定のホステスによるサービスを受けることを当然の前提としているというべきであり、口座客を持つホステスを、デパートのテナントなどと同視することはできない。原告は、伝票を点検した上、口座客に請求書を郵送していたことが認められる。しかし、伝票を作成していたのは本件クラブであり、請求書の作成名義も、郵送に使用した封筒の差出人名義も本件クラブである。原告には、口座客に対する請求金額を自由に設定する権限は一切なく、伝票をチェックする程度の権限しかなかったことが認められる。原告らホステスが、ホステスチャージを請求しないような事実があることが窺われるが、このような免除は、ホステスが、自分の口座客が頻繁に来店することを期待して、ホステスチャージの請求を控えるようなことがあるためであると考えられる。もっとも、被告は、ホステスチャージについて、顧客に対する請求権を有しておらず、ホステスチャージは、口座客からホステスに支払われるべき性格を有しており、賃金としての性格を有しているとはいえない。

イ 慣習

 北新地では、売上を有するホステスは事業主であるとの習慣が存在していたとしても、強行法規を排斥することはできない。

 外形上、原告に売上が計上され、それを根拠に、所得税法上や社会保険上、売上のあるホステスは事業主とする取扱いがされていたとしても、本件入店契約の性質を直ちに決定づけるとはいえない。

2 解雇予告手当

 判決は、解約通知が解雇に当たるとして、解雇予告手当の請求を認めました。

3 未払賃金

 判決は、遅刻以外の減給について、就業規則に定めのない懲戒処分であるとして、減給を無効とし、未払賃金の請求を認めました。

※控訴

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