【労災、過労死、脳心臓疾患】Case576 長時間の時間外労働に加え連続勤務及び勤務間インターバルの不足などの負荷要因を認めて脳血管疾患の業務起因性を肯定した事案・国・岡山労基署長(日本電気)事件・福岡高判令5.9.26労判1321.19

(事案の概要)

 労災不支給決定に対する取消訴訟です。

 本件会社で支店長として働いていた本件労働者は、会社の会議に参加していた際、右被殻出血(本件疾病)を発症し、救急搬送され治療を受けましたが、約2年後に本件疾病により死亡しました。

 本件労働者は、長時間の時間外労働をしていましたが、その時間に争いがありました。

(判決の要旨)

 判決は、脳血管疾患が業務に内在する危険の現実化として発症したと認められるためには、当該労働者と同程度の年齢・経験を有し、基礎疾患を有していても通常の業務を支障なく遂行することができる程度の健康状態にある者を基準として、業務による負荷が、医学的経験則に照らし、脳血管疾患の発症の基礎となる血管病変等を、自然的経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められる負荷といえることが必要であるとしました。

 そのうえで、1か月当たりの時間外労働時間数が、発症1か月前及び6か月前はほぼ100時間に及んでいたこと、発症前6か月間の平均時間外労働時間は81時間に達し、発症前2か月間ないし5か月間の平均時間外労働時間もいずれも70時間を超えていることから、労災認定基準に照らしても、本件労働者は、時間外労働の点において、発症前の長期間にわたって疲労の蓄積をもたらす過重な業務に従事していたとしました。

 また、本件労働者が度々10日を超える連続勤務を行っていること、発症前1か月の間に勤務間インターバルが11時間未満の日が7日存在していることが認められ、このような勤務状況は疲労の回復を阻害し、疲労を蓄積させたものと考えられるとしました。

 さらに、発症の9日前から翌日にかけて、18時間に達する長時間の労働を行っていたこと、内容的にも負荷が大きく、次の勤務まで5時間程度しか勤務間インターバルがなかったこと等からすれば、疲労蓄積の負荷を看過することはできないとしました。

 以上より、判決は、発症前6か月間の時間外労働時間数が長時間であったことに加え、連続勤務及び勤務間インターバルの不足などの負荷要因があったこと、本件労働者に本件疾病が本件会社の業務に起因して発症したことを否定すべき特段のリスクファクターも見当たらないことを総合的に考慮すれば、本件疾病の発症は、業務に内在する危険が現実化したことによるものであるのが相当であって、業務起因性が認められるとして、不支給決定を取り消しました。

※確定

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