【不当解雇・解雇撤回】Case588 方便的解雇撤回後の労働者の不就労期間について賃金請求が一部認められ歩合給変更が無効とされた事案・K’sエステート事件・東京高判令6.12.24労判1327.73
事案の概要
本件は、原告Xが、被告Y社に対し、Y社が行った解雇の通知が無効であると主張し、労働契約上の地位確認と未払賃金の支払いを求めた事案です。
Y社はXに対して令和4年5月3日付けでの解雇の通知を行いましたが、Xが解雇の無効を主張すると、同月10日頃、Xに対し、本件解雇を撤回して同月12日から本社への出頭を指示する旨、Xが職場離脱行為を繰り返していたとして懲戒手続を開始する旨を通知しました。しかし、Xはその後もY社に対して復職後の労働条件や職場環境等について質問や要望をし、労務を提供しませんでした。
解雇撤回後、Xが労務提供をしていない期間の賃金請求権の有無が問題となりました。
また、歩合給変更の有効性についても争点になりました。
判決の要旨
1 解雇撤回後の地位確認請求について
裁判所は、Y社の本件解雇撤回の意思表示により、本件解雇が違法無効であった旨のXの主張を前提とするとしても、現時点において、XがY社に対して労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する利益は認められないとし、地位確認は却下しました。
2 未払賃金請求(労務不提供期間)について
裁判所は、本件解雇は違法無効であり、解雇に至る経緯に照らせば、本件解雇等によりXとY社との間の信頼関係が相当程度損なわれたことが認められるとして、Y社が本件解雇撤回をし、労務提供を命じただけで、直ちに本件解雇等に伴う受領拒絶状態が解消されたということはできないと判断しました。不就労がY社の帰責事由によるか否かは、復職する上での具体的な支障の有無や、本件解雇撤回後の双方の対応状況等を総合考慮して判断するのが相当であるとしました。
Xが、復職後の賃金、職務内容等の就労条件や職場環境等を確認し、これが明らかになるまで就労を拒否するとの対応をとったことは、相応の理由があるものといえるとの判断が示されました。
その後、Y社が復職後の就労条件やその根拠を明示し、職場環境への配慮(ハラスメントを行わない誓約、懲戒手続の停止方針等)を示したことは、復職後の職場環境に一定の配慮をするものであったと評価されました。これらの対応により、遅くとも令和4年5月26日頃までには、本件解雇による受領拒絶及びこれに伴い作出された労務提供を困難とする状況が相当程度改善されたということができると判断しました。また、同年6月6日頃にY社がXに対して、1週間の期限を定めて労務提供の意思を連絡するよう通知したのに対して、Xが同月13日頃の通知により、労務提供の意思の有無を明らかにせず、復職に向けたさらなる検討事項を具体的に指摘せず、労働審判を申し立てる旨告げたことから、Xは労務提供が可能であったとして、それ以降のXの不就労については、Y社に帰責性があるとは認められないと結論づけました。
以上より、Xの不就労期間のうち、令和4年6月13日までの賃金請求が認められました。
3 未払賃金請求(歩合給減額部分)について
裁判所は、本件歩合給の変更は、営業担当者にとってハイリスクハイリターンの内容であるとし、Xが真意により合意したか否かを慎重に検討する必要があるとしました。Xが営業会議で異議を述べなかった点について、Y社代表者との対立から不利益を懸念したためと考えられ、この点をもってXが本件歩合給変更に真意により合意したとは認められないと判断し、Xの歩合給の請求を認めました。
※上告・上告受理申立