【過労死・過労自殺】Case593 甲府市職員の過労自殺について上司が適切な措置を怠ったとして市の責任が認められた事案・甲府市事件・甲府地判令6.10.22労判1325.5【労災・労働弁護士が選ぶ今日の労働裁判例】

【事案の概要】

 本件は、被告甲府市に勤務していた被災労働者(以下「K」)の相続人である両親(原告Xら)が、Kが甲府市の注意義務違反により長時間勤務を強いられた結果、精神障害を発症して自殺に至ったと主張し、甲府市に対し国家賠償法または債務不履行に基づき損害賠償を求めた事案です。

 Kは2019年4月に新設されたA部A1室A2課A3係に配属されました。A3係の業務、特に職員の定員管理は、部署間の人員調整の誤りが許されず、慣れるまでに一定の時間を要する業務であり、また市の幹部職員との交渉が必要とされる特殊な部署であったため、経験豊富な職員でも精神的な重圧を感じることがありました。Kは2019年12月に初めて交渉を行い不調に終わり、次年度の業務遂行に相当の不安を抱えていました。

 Kは2019年4月から2020年1月の自殺前日までの間、所定勤務時間外の勤務時間が長い月では200時間を超えており、その大半を自身の担当業務または関連活動に充てていました。また、2019年5月から7月までの48日間と、2019年11月から12月までの40日間は連続して登庁しており、特に後者の期間では16日間が翌日の時間帯に及ぶ勤務となっていました。甲府市では超過勤務命令簿による申告制が採用されていましたが、Kの直属の上司であるE課長は、Kの申告時間と実際の在庁時間に隔たりがあることを認識していました。E課長はKに口頭で退庁時刻を確認するなどの対応に留まり、Kは実際には深夜まで在庁していても、おおむね午後8時から9時に退庁したと回答していました。Kは2020年1月、市役所庁舎から投身自殺しました。その後、Kの自殺は公務災害と認定されています。

【判決の要旨】

 判決は、Kの業務は、時間外勤務時間の多さ、連続勤務日数、精神的重圧を伴うA3係の特殊な業務内容から、一般の労働者を基準として「過重(特に量的に過重)」であったと認定しました。

 E課長は遅くとも2019年12月上旬にはKの勤務時間が過重であると認識可能であったにもかかわらず、正確な時間外勤務時間を把握し、Kの業務内容を変更するなどの措置を講ずる義務を怠ったと判断しました。

 そして、甲府市に対して、原告らに合計約6000万円を支払うよう命じました。

 甲府市の過失相殺の主張は否定されました。

※確定

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