【労働組合】Case602 労働組合による使用者に対するストライキや要求行為が「脅迫」に当たらないとしていずれも無罪とされた刑事事件・全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(強要未遂等)刑事事件・京都地判令7.2.26労判1331.5
労働組合が使用者に対して解決金や就労証明書を要求する行為が強要罪や恐喝罪等の犯罪に当たることはあるのでしょうか。
全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(強要未遂等)刑事事件は、労働組合が解決金や就労証明書の要求をめぐって行ったストライキや監視活動が、刑事上の強要未遂や恐喝未遂に当たるかどうかが問われた事案において、被告人である組合幹部らに無罪判決が言い渡された刑事事件です。
【事案の概要】
本件は、全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(以下「関生支部」)の執行委員長(当時)と副執行委員長(当時)である被告人両名が、以下の4つの被疑事実について罪を問われた刑事事件です。
① ベスト・ライナー事件(恐喝容疑)
関生支部は、京都生コンクリート協同組合(以下「京都協組」)に対し、ベスト・ライナー社(京都協組が設立に関与)の解散に伴う組合員7名の退職金などの名目で、1億5000万円の解決金を要求し、協定不履行に対しストライキや動静監視活動を行いました。
② 近畿生コン事件(恐喝容疑)
近畿生コン社(京都協組加盟社)の破産申し立て後、関生支部は同社のプラントを占拠し、京都協組に対しプラント占拠費用などとして6000万円の支払いを要求しました。
③ 加茂生コン第1事件(強要未遂容疑)
関生支部は、村田建材に対し、日雇い運転手であった組合員Fを正社員として雇用し、就労証明書を作成・提出させるよう脅迫したとされました。
④ 加茂生コン第2事件(強要未遂及び恐喝未遂容疑)
村田建材の代表取締役に対し、監視行為の中止と引き換えに、生コン製造プラントの解体とミキサー車1台の譲渡を要求したとされました。
【判決の要旨】
京都地方裁判所は、被告人両名に対し、すべての被疑事実について無罪を言い渡しました。 判決は、4つの事件のうち3件(①ベスト・ライナー事件、②近畿生コン事件、④加茂生コン第2事件)については恐喝罪または強要罪の実行行為自体が認められないとし、残る1件(③加茂生コン第1事件)については共謀が認められないとしました。
①ベスト・ライナー事件
解決金の要求は、京都協組側から金銭解決の申し入れがあったことを端緒とし、被告人の側から1億5000万円を要求した事実は認められず、仮に要求したとしても1億5000万円という金額も退職金として法外とはいえず、脅迫には該当しないとされました。ストライキ自体も、協定不履行に応じたものであり、労務の不提供や平和的な協力要請を超える脅迫的な言動があったとは立証されていないと判断されました。
検察官は、これまでの争議の経過から、関生支部は、京都協組やその加盟各社に対して圧倒的な優位性を有していたと主張しましたが、判決は、検察官の主張は、つまるところ、関生支部が京都協組に対してどのような要求をしても、それらはいずれも脅迫に該当すると言っているに等しいとして検察官の主張を一蹴しました。
判決は、そもそも、ストライキをはじめとする争議行為は、その性質上、労働組合が使用者に一定の圧力をかけ、その主張を貫徹することを目的とする行為であって、業務の正常な運営を阻害することはもともと当然に予定されているものであるし、そうした意味で、使用者側がストライキを避けたいと考えることは当然の前提になっているとしました。
したがって、労働組合のストライキや要求行為が「脅迫」に該当するといえるためには、それらが行われた当時の状況(各当事者の属性・関係性、それまでの経緯等)やその具体的な態様等に照らして、人を畏怖させるに足りる程度の害悪の告知があったと同視し得る必要があるとしました。
②近畿生コン事件
解決金6000万円の要求は、要求拒絶の場合に生じる具体的な不利益等を想起させるものではなく、態度も威圧的ではなかったとされました。京都協組は、関生支部によるプラント占拠を、関生支部のあらゆる要求に応じざるを得ないとまで畏怖していたとは考えがたいとされました。
③加茂生コン第1事件
現場の組合員による脅迫に該当する行為があったとしても、強要被告人両名と現場の組合員との間に、脅迫に該当する行為についての共謀は認められないとされました。被告人両名が具体的な言動や監視行為の利用について事前に相談を受けて把握し、それを了承または指示していたとは認められないと判断されました。
④加茂生コン第2事件
監視行為は、村田建材の「偽装廃業」を確認する目的で行われたもので、その態様も後に動静監視のみにとどまるなど、人を畏怖させるに足りる程度の害悪の告知とはいえないとされました。プラント解体やミキサー車譲渡の要求についても、被告人両名に強要行為や恐喝行為があったとはいえないとしました。
【まとめ】
・ストライキをはじめとする争議行為は、その性質上、労働組合が使用者に一定の圧力をかけ、その主張を貫徹することを目的とする行為であって、業務の正常な運営を阻害することはもともと当然に予定されている
・使用者が、ストライキを避けたいと考えて組合の要求に応じざるを得ないとしても、それだけでは脅迫とはいえない