【パワハラ】Case606 上司が職場の従業員らに送信した部下を侮辱するメールが不法行為に当たるとされた事案・A保険会社上司(損害賠償)事件・東京高判平17.4.20労判914.82
上司が部下への指導の目的で、部下に対する侮辱的な内容のメールを送信した場合、部下は上司に対して損害賠償請求をすることができるのでしょうか。
(事案の概要)
原告労働者が被告上司個人に対して損害賠償請求した事案です。
原告労働者は、本件会社のサービスセンター(SC)において課長代理として勤務していました。
SCのユニットリーダーDは、原告の案件処理状況が芳しくなかったことから、原告を含むユニットの従業員に対して「原告KD〔課長代理〕 もっと出力を」と題するメールを送信しました。所長である被告上司は、Dのメールを見て、原告への指導の目的で、ポイントの大きい赤文字で、「意欲がない、やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います。当SCにとっても、会社にとっても損失そのものです。あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。……これ以上、当SCに迷惑をかけないで下さい」などと記載した本件メールを、原告を含むユニットの従業員十数名に送信しました。
原告は、被告上司に対して、本件メールが名誉毀損またはパワー・ハラスメントの不法行為に当たるとして、損害賠償請求しました。
(判決の要旨)
判決は、本件メールの送信目的は、職場の上司である被告が原告の地位に見合った処理件数を達成するよう𠮟咤督促するものであって是認できるのであって、被告にパワー・ハラスメントの意図があったとは認められないとしました。
しかし、本件メール中には、「やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います。当SCにとっても、会社にとっても損失そのものです。」という、退職勧告とも、会社にとって不必要な人間であるとも受け取られるおそれのある表現が盛り込まれており、これが原告のみならず、同じ職場の従業員十数名にも送信されており、この表現は、「あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。……これ以上、当SCに迷惑をかけないで下さい」という、人の気持ちを逆撫でする侮辱的言辞と受け取られても仕方のない記載などの他の部分ともあいまって、原告の名誉感情をいたずらに毀損するものであることは明らかであり、上記送信目的が正当であったとしても、その表現において許容限度を超え、著しく相当性を欠くものであって、不法行為を構成するとしました。
そして、慰謝料5万円を認めました。
※上告不受理により確定