【労災】Case618 振動工具の使用による振動病の発症について使用者が適切な作業計画を策定すべき義務を怠ったとして損害賠償が認められた事案・兵庫県公立大学法人(振動病)事件・神戸地姫路支判令7.1.23

労働者が草刈機などの振動工具を長時間使用したことにより振動病を発症した場合、使用者に対して損害賠償請求できるのでしょうか。

【事案の概要】

原告労働者Xは、被告Y法人の事務嘱託員として任用され、2020年3月までY法人が運営する大学で清掃等の環境整備業務に従事していました。Xの業務には草刈りが含まれ、Y法人から支給された充電式チェーンソー、エンジン付刈払機、ブロワ、自走式草刈機などの振動工具のほか、私物の振動工具も使用していました。

厚生労働省労働基準局長通達により、チェーンソー及びチェーンソー以外の振動工具の取扱い業務に関する振動障害予防対策指針が策定されており、1日当たりの振動曝露時間を2時間以内とすることが望ましいとされていました。

Xは毎日の作業内容を業務日報に記載し、上司Mが確認していましたが、Mは振動工具の使用時間制限があることを知っていたにもかかわらず、Xの実際の使用時間を把握していませんでした。2019年5月には、Mは、Xの刈払機による作業時間が長くなる傾向にあると認識し、Xに対し、振動作業は連続30分、5分以上の休憩を1セットとし、全体で1日あたり4セットまで(作業時間は合計2時間まで)とするよう指示していました。

Xは2020年3月に振動病と診断され、その後労災認定を受けました。

本件は、Xが、Y法人に対して、振動工具の使用時間制限や適切な作業計画策定を怠ったY法人の不法行為により振動病を発症したと主張し、損害賠償を求めた事案です。

【判決の要旨】

1 Y法人が振動工具の使用時間を2時間以内に制限すべき義務を怠ったか

裁判所は、「チェーンソーを含む振動工具を使用する場合には,それにより振動障害が生じる可能性があるのであるから,使用者であるY法人においては,これを防止するために必要な措置を講じるべき義務を負うと解されるところ,本件各指針や証拠(……)に照らせば,使用者においては,本件各指針が適用される振動工具については,基本的にはその使用時間を最大でも 2時間以内とすべき義務を負うと解するのが相当である」としたうえで、本件各指針が適用されない振動工具を使用する場合については、「振動工具を使用する以上振動障害が生じる可能性があるのであるから,Y法人において,これを防止するために必要な措置を講じるべき義務を負うと解されるが,振動の程度は工具によって様々であるから,その使用時間を一律に 2時間以内にすべき義務があるとは認められない」と判示しました。

そして、Y法人が支給しXが使用していた本件各指針の対象となる振動工具の使用時間が1日2時間を超えていたとは認められず、Y法人が本件各指針の対象となる工具の使用時間について、2時間以内とすべき義務に違反したとは認められないと判断されました。

2 Y法人が適切な作業計画を策定すべき義務を怠ったか

裁判所は、「振動工具を使用する以上振動障害が生じる可能性があるから,Y法人においては,これを防止するために必要な措置を講じるべき義務を負うと解されるところ,本件各指針の内容にも鑑みれば,具体的には,Y法人においては,Xについて,振動工具の作業時間や作業方法等の適切な作業計画を策定し,原告の振動工具の使用時間について把握し,その使用時間や程度に応じて必要な措置を講じるべき義務を負うと解するのが相当である」と判示しました。

そして、Y法人は、Xの振動工具の使用時間が長時間に及んでいることを十分に認識し得たにもかかわらず、Xの振動工具の使用時間を把握せず、その使用時間や程度に応じて適切な作業計画を策定していなかったことから、Y法人は上記の義務を怠ったと認められました。

3 結論

裁判所は、Y法人が上記の義務を講じていれば振動病の発症を防止できたといえるとして、安全配慮義務違反と振動病発症との間に因果関係が認められました。

そして、生じた損害のうち1割を過失相殺し、Y法人に対し、傷害慰謝料及び休業損害等の合計約279万円の賠償を命じました。

※控訴

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