Case634 上司が部下に偽装請負に当たる行為を指示したことが違法なハラスメントに当たるとされた事案・大津市(市教委職員)事件・大阪高判令6.12.12労判1338.23
【事案の概要】
原告労働者X(大津市職員、市教委生涯学習課副参事)は、市教委が民間団体(連合会)に委託していた人権・生涯学習推進事業において、連合会が雇用する職員の採用手続きや具体的な業務指導を市職員が行っている実態が偽装請負(労働者派遣法違反行為)に当たると指摘しました。Xは、上司であるA課長およびB政策監に対し、当該違法状態の懸念を伝えましたが、A課長からは連合会職員に仕事を指示することや公務として連合会の仕事に従事することを指示されました。また、B政策監は、違法行為を懸念し辞める覚悟もあるとしたXに対して「辞める覚悟やったら何でもできるわな」などと発言しました。
本件は、Xが大津市に対して、A課長及びB政策監の言動等が違法なパワー・ハラスメントに当たるとして国家賠償請求した事案です。
【判決の要旨】
判決は、地方公務員法32条の下では、職務命令に瑕疵がある場合でも、何人がみても違法であることが明白であり、それに服従すれば違法な行為を行う結果となるといったような場合を除き、職務命令は違法ではないとしました。
そのうえで、A課長がXに対し、連合会職員に仕事を指示することや公務として連合会の仕事に従事することを指示した行為について、これは、連合会側から指示を受けていない連合会職員に対し、市の職員が業務内容の不明点を教えるものであり、「実質的にみて委託の業務につき直接指揮命令を行うよう求めたものといわざるを得ない」と認定しました。
そして、この職務命令は「労働者派遣法違反行為を遂行するように命じる点で、瑕疵は明白と言え、それに服従すれば市職員に同法違反を助長させる結果となるほどに重大であるから、当該職務命令自体も違法である」と判断し、「違法行為の実行を職務上の優位性を背景に命令するものであり、ハラスメントとして国賠法上違法である」として、不法行為の成立を認めました。
また、B政策監がXに対し「辞める覚悟やったら何でもできるわな」等と発言した行為も、「職務上の上下関係を背景として,業務上の必要を超えた発言」であり、国賠法上違法であると認めました。
慰謝料としては、20万円が認められました。
※上告・上告受理申立

