【不利益変更】Case637 無期雇用から賃金減額を含む有期雇用への契約変更の意思表示が錯誤により無効とされた事案・駸々堂事件・大阪高判平10.7.22労判748.98
【事案の概要】
被告Y会社は、経営合理化の一環として、期間の定めのない雇用契約(旧契約)を締結していた定時社員であるX(訴訟中に死亡、遺族らが承継)らに対し、雇用期間を6か月とし、時給の減額や賞与の不支給などを内容とする新たな雇用契約(新契約)の締結を求め、同様に就業規則を変更しました。Xは当初新契約締結に難色を示していましたが、店長らから新契約を締結しなければ解雇されるかのような説明を受け、やむなく新契約書に署名押印しました。
Yは、新契約締結に同意しなかった従業員に対しては、新就業規則を適用せず旧契約を継続していました。
その後、Xはがんに罹患し入院・手術のため約4か月間欠勤しましたが、Yは新契約の期間満了または解雇権の留保に基づき、Xとの雇用関係を終了させる旨の通知を行いました。Xは、新契約の締結は錯誤により無効であり、旧契約が存続しているとして、従業員としての地位確認および旧契約に基づく賃金の支払いなどを求めて提訴しました。
【判決の要旨】
1. 新契約締結の効力(錯誤無効)
判決は、本件労働者が新契約に署名押印した行為は、新契約を締結しなければYとの雇用関係を維持することができないものと誤信して行われたものであるとして動機の錯誤を認めました。また、新契約締結に関するXと店長とのやりとりのなかで右動機が黙示的に示されて新契約締結の意思表示の内容になり、雇用期間六カ月、時間給の切下げや労働時間の低減、賞与不支給など労働条件が大幅に引き下げられるため、その錯誤がなければ締結に応じることはなかったと考えられることから、Xの新契約締結の意思表示は要素の錯誤に当たり無効であるとしました。
2. 就業規則の変更による拘束力の否定
Yは、仮に新契約が無効であっても、就業規則の変更により労働条件の変更は有効であると主張しました。
しかし、裁判所は、Yが画一的な決定ではなく個々の同意を前提として新契約の締結を図り、新契約に同意しなかった従業員に対しては旧契約を継続している以上、そもそも就業規則の強制的な適用の前提を欠いており、就業規則の変更(新規制定)によって労働条件が変更されたとは認められないと判断しました。
また、仮に就業規則の変更があったとしても変更の合理性は認められないとしました。
3. 解雇(留保解約権行使)の無効
裁判所は、新契約が無効である以上、本件雇用契約終了の通知は、旧契約に基づく解雇の意思表示と解されるとしました。
そして、本件において、Xの欠勤は約4か月に及んでいましたが、これはがん治療というやむを得ない事由によるものであり、職場復帰も可能な程度まで回復していたことなどから、Xの欠勤を理由とする解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することはできないとして、解雇権の濫用に当たり無効であるとしました。
※ 上告棄却により確定

