【配転】Case638 視力障害を理由とする熟練工の清掃業務への配転及び大幅な賃金減額合意が公序良俗違反として無効とされた事案・オリエンタルモーター(賃金減額)事件・東京高判平19.4.26労判940.33

【事案の概要】

原告労働者Xは、昭和45年に被告Y社に入社し、30年以上にわたり精密小型モーター部品の加工等に従事してきましたが、組合活動家としても知られていました。Xは平成10年頃に右眼の黄斑変性症と診断され、平成14年12月に視力低下により従来の業務(正確な視力を要する測定等)が困難であるとして、Y社に業務の変更を申し出ました。これに対しY社は、Xを製造ラインから外し、1か月間にわたり具体的な仕事を与えずに休憩用ベンチに座っているよう指示しました。その後、Y社はXに対し、これまで外部委託していた構内清掃業務を、委託費と同額程度の月額約18万円(従前の賃金総額約31万7000円から約43%の減額)で担当するよう提案しました。Xは、仕事を失う不安や職場での孤立感から心理的に追い詰められ、平成15年4月、大幅な賃金減額を内容とする「通知」等の書面に署名しました。 Xは、この賃金減額の合意は無効であると主張し、従前の賃金との差額の支払いおよび不法行為に基づく慰謝料等を求めて提訴しました。

【判決の要旨】

裁判所は、従業員の病気に由来する業務変更(配転)およびそれに伴う賃金変更について、人事権の行使にあたっては、労働者の従前の経歴・業務の内容を踏まえた上で、当該疾病による障害の程度を考慮した適切な代わりの業務に就けるよう、また、代わりの業務への就労に対応する賃金についても、業務負担が減少する分相当の減額がされることはありうるとしても、労働者のこれまでの職歴、業績、過去の昇級経過等を考慮し適切な範囲にとどまるよう配慮することが要請されているものというべきである、と述べました。

そして、以下のことから、本件業務変更および賃金減額の合意は、公序良俗に違反するものとして無効であると判断しました。

・Y社が提案した清掃業務は、Xの30年以上の熟練工としてのキャリアを無視したものであり、賃金減額も基本給で約46%減という極端なものであったこと。Y社には、Xの視力でも遂行可能な他の業務(部品洗浄や運搬など)が存在し、実際に配置転換が可能であったにもかかわらず、Y社はそのような調整努力を怠り、あえて清掃業務のみを提示したこと。

・Y社はXに対し、仕事を与えずベンチに座らせ続けるなどの対応をとり、Xを「仕事を失うかもしれない」という不安な状態に追い込んだこと。Xが書面に署名したのは、生計のためにY社の提案を受け入れざるを得ないと考えたためであり、自由な意思に基づくものではなかったこと。

・Y社の対応には、Xが所属する労働組合を嫌悪し、組合員を不利益に扱おうとする動機がうかがわれたこと。

合意が無効であるため、Xの賃金全額(差額分)の請求が認められました。

また、Y社がXを長期間無為にさせ、大幅な賃金減額を強いた一連の行為は、組合員に対する不利益取扱い(不当労働行為)であるとともに、Xの人格権を侵害する不法行為を構成するとして、慰謝料150万円の支払いが命じられました。

※上告不受理により確定

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