【不当解雇】Case659 退職願提出後の懲戒解雇が使用者による退職合意の撤回の意思表示に当たるとされた事案・宮田自動車商会ほか事件・札幌高判令6.3.22労判1343号40頁
【事案の概要】
原告労働者Xは、自動車関連商品の卸売業等を営む被告Y社に雇用され、各営業所の所長などを務めていました。
Xは、令和2年1月、Y社の役員らから不適切な業務処理等について事情聴取を受け、進退伺等の提出を求められたことを契機として、同年1月14日に、同年3月31日を退職日とする「退職願」を提出しました
しかし、Xは、同年2月27日に退職の意思を撤回する旨の弁明書を提出しました。
これに対し、Y社は、Xの非違行為を理由として令和2年3月に諭旨解雇処分を通知し、その後、同年3月27日付で同年4月28日をもって懲戒解雇する旨の通知(本件懲戒解雇)を行いました。
Xは、退職の合意は成立しておらず本件懲戒解雇も無効であるとして、労働契約上の地位確認、解雇後の未払賃金(バックペイ)の支払い、未払残業代の支払い、および代表取締役Y2によるパワーハラスメントに対する損害賠償等を求めて提訴しました
Xは退職の意向を示した後に起業の準備を進め、令和2年6月に同業の別会社(A社)を設立し、代表取締役に就任して事業を行っていました。
なお、一審はXの未払残業代請求を一部認めましたが、控訴審において当該訴えは分離されました。
【判決の要旨】
判決は、本件懲戒解雇を無効としてXの地位確認を認容し、Y2のパワハラに基づく慰謝料請求を一部認容しましたが、Xの就労の意思および能力を否定して、解雇後のバックペイ請求を棄却しました。
1. 退職合意の撤回と懲戒解雇の関係
判決は、Xの退職願提出を合意解約の申込みとし、Y1社がこれを受理した時点で「合意が一旦は成立した」と認定しました。
その上で、本件懲戒解雇は、Y社とXとの間の労働契約が同年3月31日を経過した後も同年4月28日までは維持されることを前提に、同日をもって懲戒解雇処分により終了するとの内容であると解さざるを得ないから、Y社は、本件懲戒解雇の通知により、同年3月31日をもって労働契約を終了する旨の申込みに対する承諾を撤回し、改めて同年4月28日をもって懲戒解雇を行う旨の意思表示をしたものと評価するほかはなく、そうすると、Y社とXとの間では、同年1月22日の段階で、同年3月31日をもって労働契約が終了する旨の合意が一旦は成立したものの、その効果が発生する前の同年3月27日の段階で、X及びY社の双方が合意退職の申込み及びこれに対する承諾を撤回する旨の意思表示をした結果、合意が撤回されて退職合意の効果が生じないことになったということができ、したがって、本件退職願の提出により、控訴人会社と被控訴人との間の労働契約が終了したということはできない、としました。
2. 懲戒解雇の相当性
判決は、就業規則の周知性を認めたうえで懲戒事由該当性を個別に検討し、Xの非違行為は「出勤停止又は降職」に該当するにとどまると認定しました。
そして、本件懲戒解雇は重きに失し社会通念上の相当性を欠き無効であるとしました。
3. バックペイの否定
もっとも、判決は、Xが同業の別会社を設立・経営している事実について、日々の生活の糧を得るためにやむなく行っているものとはいえないと評価し、このようなA社の設立に至るまでの状況、設立後の同社の実態、Xが退職を撤回した理由などを踏まえると、Xは、専ら本件懲戒解雇処分により退職金が支給されないことに異議を述べるために退職を撤回し、令和2年4月1日以降、当初の予定どおりA社を設立して同社を経営しているのであって、客観的に見てY社に復職して再度就労する意思及び能力は有していなかったとみるのが相当であり、Y社の責めに帰すべき事由によって、Xが労務提供を履行することができなかったということはできないとしてバックペイの請求を棄却しました。
4.パワハラ慰謝料
判決は、Y2が面談の際にXの態度に怒り、机を叩き、Xの胸倉をつかんで「ふざけるな」などと怒声を浴びせたうえ、携帯電話を投げつけたことについて、行為態様が著しく相当性を欠くものであることに加え、Y2とXの立場の違いを踏まえると、Y2の上記行為について、業務上必要かつ相当な範囲内の職務上の指導であったと評価することはできず、Xの人格的利益を侵害する不法行為にあたるとし、慰謝料10万円等の請求を認めました。
※上告不受理により確定

