Case229 7年以上前の上司への暴行を理由とする諭旨退職処分を時間の経過により無効とした最高裁判例・ネスレ日本事件・最判平18.10.6労判925.11【百選10版54】
(事案の概要)
原告ら労働者2名は、被告会社と対立的な関係にある労働組合の中心的人物でした。原告らは、平成5年から平成6年にかけて、上司が原告Bの病気欠勤の年休への振替を繰り返し認めなかったことが組合への攻撃であると考え上司に抗議するなかで、繰り返し、上司のネクタイや襟をつかんで壁に押し付ける、膝を蹴り上げる、右手小指をねじり上げる、腹部を殴るなどの暴行を加えました。
会社は、原告らに猛省を促しましたが、上司が警察に被害届を提出する等したことから、会社としての処分の検討は警察の捜査結果を待つことにしました。
平成12年に原告らが不起訴処分となりましたが、その後原告らとともに上司に暴行を加え退職願を書いていたCが会社を訴えた訴訟で会社の主張が認められたことから、会社は平成13年に改めて原告らの処分を検討し、7年以上前の暴行等を理由に原告らを諭旨退職処分としました。
本件は、原告らが諭旨退職処分の無効を主張して地位確認等を求めた事案です。
一審判決は懲戒解雇を無効としていましたが、控訴審は懲戒解雇を有効としました。
(判決の要旨)
判決は、暴行事件から7年以上経過後にされた本件諭旨退職処分について、本件各事件は職場で終業時間中に行われた暴行事件であり、被害者以外にも目撃者が存在していたのであるから、捜査の結果を待たずとも会社において原告らに対する処分を決めることは十分に可能であり、長期間にわたって懲戒権の行使を留保する合理的な理由は見出し難いとしました。
また、不起訴処分となったのに原告らを諭旨退職処分とすることは対応に一貫性を欠くとしました。
そして、本件各事件以降期間の経過とともに職場における秩序は徐々に回復したことがうかがえ、本件諭旨退職処分をした時点においては、企業秩序維持の観点から原告らに対し重い懲戒処分を行うことを必要とする状況にはなかったとして、本件諭旨退職処分を懲戒権の濫用として無効としました。