Case270 和解内容に違反して専任教授に授業を担当させなかったこと及びハラスメントの申告を長期間放置したことが債務不履行に当たるとされた事案・学校法人茶屋四郎次郎記念学園(東京福祉大学・授業担当)事件・東京高判令4.10.24

(事案の概要)

 大学の専任教授である原告労働者は、過去に被告法人から無効な雇止め及び懲戒解雇を受けたのち復職しました。その後、原告の法人に対する訴訟において、原告が1コマ90分の授業を4コマ行うことなどを内容とする訴訟上の和解及が成立し、同内容の雇用契約が締結されました。

 その後、法人が原告に授業を担当させなくなったことから、原告は法人に対して債務不履行に基づく慰謝料を請求しました。

 また、原告は、法人のハラスメント防止・対策専門部会が、原告の申告したハラスメントを審議不能と判断し、その結果を約8か月後になって原告に通知したことについても慰謝料を請求しました。

 なお、原告は、1年半にわたり授業を担当できないまま定年退職を迎えました。

(判決の要旨)

1審判決・東京地判令4.4.7労判1275.72

1 授業を担当させなかったことについて

 判決は、大学の教員が講義等において学生に教授する行為は、労務提供義務の履行にとどまらず自らの研究成果を発表し、学生との意見交換等を通じて学問研究を深化・発展させるものであって、当該教員の権利としての側面を有するとの一般論を示しました。

 そして、本件の経緯を踏まえれば、原告と法人は、本件和解および本件契約において、法人が原告に対し少なくとも週4コマ(1コマ90分)の授業を担当させることを合意したものであって、法人はその具体的義務を負うとして、法人が原告に授業を担当させなかったことは債務不履行に該当するとし、慰謝料100万円を認めました。

2 ハラスメントに申告に対する対応について

 判決は、使用者は、安全配慮義務の一環として、ハラスメントなど従業員の職場環境を侵害する事案が発生した場合、事実関係を調査し、事案に誠実かつ適切に対処し、適切な時期に申告者に報告する義務を負っているとしました。

 そのうえ、本件部会が原告の申告を審議不能と判断したことはやむを得ないとしつつ、審議不能と判断してから回答までに8か月余りが経過したことについて、合理的理由のない回答遅延は債務不履行を構成するとして、慰謝料5万円を認めました。

控訴審判決

 控訴審も1審判決を維持しました。

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