Case296 労働組合の中央執行委員長のパワハラ及びパワハラ防止措置義務違反が認められた事案・A労働組合山梨県本部事件・甲府地判令4.9.1
(事案の概要)
本件は、A労働組合山梨県本部の書記であった原告労働者が、組合の中央執行委員長であった被告に対して、パワハラ及びパワハラ防止措置義務違反があったとして損害賠償請求した事案です。
原告は、県本部の書記次長から、時間休の申請を申し出たことに対して「仕事なんだから出てきてくださいよ!」と大声で言われたり、退社しようとした際に「何もしない、何も働かない、休めていいね」と言われるなどのパワーハラスメントを繰り返し受けていました。
また、原告は、書記次長が組合の車のタイヤを交換したいと言ったため、タイヤ交換をしました。タイヤをはきつぶすことを考えていた被告は、タイヤが交換されていたことに怒り、交換したのは誰かと尋ね、原告が書記次長に頼まれて交換した旨言ったのに対し、書記次長がこれを否定すると、原告に対し「どういうことだ!」「報・連・相が足りないんだ!」「人の責任にするな!」などと大声で叱責し、原告を助手席に乗せてガソリンスタンドに向かう道中、約10分間原告に対して報告・連絡・相談がないことなどについて原告を大声で叱責しました。
(判決の要旨)
1 被告のパワハラについて
判決は、タイヤ交換についての被告の原告に対する叱責は、原告と被告の立場の差や、被告が原告と書記次長の双方の言い分の詳細を確認することなく、一方的に原告を叱責し、態様も比較的長時間であったことなどを踏まえると、社会通念上相当と認められる限度を超えたものといえ、違法なパワーハラスメントに当たるとしました。
2 パワハラ防止義務違反について
また、組合県本部の業務を統括する立場にあった被告は、不法行為上の注意義務として、組合県本部に勤務する原告が快適に就労できるよう職場環境を整える義務を負っており、その一環として職場におけるパワーハラスメントを防止するため適切な措置を講じる義務を負っていたと考えられるのに、書記次長の原告に対する違法なパワーハラスメントを直接見て、把握していたのに、何らの措置もとらずにこれに違反したとしました。
3 損害
書記次長が原告に対して慰謝料45万円を支払っていたことなどの一切の事情を考慮して、慰謝料を20万円としました。