Case381 労働者にいかなる場合にも会社の調査に協力する義務はないとして調査に協力しなかったことを理由とする懲戒処分が無効とされた事案・富士重工業事件・最判昭52.12.13労判287.7
(事案の概要)
被告会社は、従業員Bらが就業中に他の従業員に対して原水爆禁止運動のために販売するハンカチの作成を依頼するなど就業規則に違反する行為をしたとして、その調査を行っていました。
その結果、Bが原告労働者に対してもハンカチの作成を依頼し、原告も休憩時間中に従業員に対してハンカチの作成を依頼していたことが判明しました。
会社は、Bの就業規則違反の事実関係を把握することを目的として、原告に対する事情聴取を行いました(本件調査)。原告は、本件調査において、Bに頼まれてハンカチを作成したことなどは答えましたが、原水爆禁止運動のメンバー、活動状況等の質問に対しては「答える必要がありません。」などとして返答を拒否しました。
会社は、原告が本件調査に協力しなかったことが就業規則違反であるとして原告を譴責処分としました(本件懲戒処分)。
本件は、原告が本件懲戒処分の無効の確認を求めた事案です。
(判決の要旨)
判決は、企業は、企業秩序に違反する行為があった場合には、その違反行為の内容、態様、程度等を明らかにして、乱された企業秩序の回復に必要な業務上の指示、命令を発し、又は違反者に対し制裁として懲戒処分を行うために、事実関係の調査をすることができるとしました。
しかし、労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることによって、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負うが、企業の一般的な支配に服するものではないことから、企業が企業秩序違反事件について調査をすることができるということから直ちに、労働者が、これに対応して、いつ、いかなる場合にも、当然に企業の行う調査に協力すべき義務を負っているものと解することはできないとしました。
そのうえで、⑴当該労働者が他の労働者に対する指導、監督ないし企業秩序の維持などを職責とする者であって、右調査に協力することがその職務の内容となっている場合には、右調査に協力することは労働契約上の基本的義務である労務提供義務の履行そのものであるから、右調査に協力すべき義務を負うが、⑵それ以外の場合には、調査対象である違反行為の性質、内容、当該労働者の右違反行為見聞の機会と職務執行との関連性、より適切な調査方法の有無等諸般の事情から総合的に判断して、右調査に協力することが労務提供義務を履行する上で必要かつ合理的であると認められない限り、右調査協力義務を負うことはないとしました。
本件では、⑴本件調査に協力すべきことが原告の職務内容とはなっておらず、⑵本件調査は主としてBの就業規則違反の事実関係を把握することを目的としてされたものであるところ、原告に対する具体的な質問事項の内容、殊に原告が返答を拒んだ質問事項のうち主要な部分は、原告の職務執行との関連においてBの就業規則違反の事実を具体的に聞き出そうとするものではなく、原告その他従業員の組織、活動状況等を聞き出そうとしたものであるから、原告が本件調査に協力することが原告の労務提供義務の履行にとって必要かつ合理的であったとはいえないとして、原告には本件調査に協力する義務はないとしました。
そして、そのような義務を前提としてされた本件懲戒処分は違法無効であるとしました。