Case425 女性従業員に対して繰り返しセクハラ発言等をした男性管理職に対する出勤停止処分等を有効とした最高裁判決・L館(海遊館)事件・最判平27.2.26労判1109.5
(事案の概要)
水族館を運営する被告会社で管理職として勤務していた原告労働者ら2名(男性)は、それぞれ女性従業員に対してセクハラ等をしたことを理由に出勤停止の懲戒処分及び降格処分を受けました。
本件は、原告らが会社に対して、各処分の無効を主張した事案です。
会社は、職場におけるセクハラの防止を重要課題として位置付け、研修への毎年の参加を全従業員に義務付けるなどし、「セクシュアルハラスメントは許しません!!」と題する文書(本件文書)を配布・掲示するなど、セクハラ防止のための種々の取組みを行っていました。
認定されたセクハラ行為は以下のとおりです。
<原告1の行為>
1 女性従業員Bに対して、複数回、自らの不貞相手の年齢や職業の話をし、不貞相手とその夫との間の性生活の話をした。
2 Bに対して「俺のん、でかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ。」と言った。
3 Bに対して、複数回、「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん。」、「でも俺の性欲は年々増すねん。なんでやろうな。」、「でも家庭サービスはきちんとやってるねん。切替えはしてるから。」と言った。
4 Bに対して、不貞相手の話をした後、「こんな話をできるのも、あとちょっとやな。寂しくなるわ。」などと言った。
5 Bに対して、不貞相手が自動車で迎えに来ていたという話をする中で、「この前,カー何々してん。」と言い、従業員Aに「何々」のところをわざと言わせようとするように話を持ちかけた。
6 Bに対して、不貞相手からの「旦那にメールを見られた。」との内容の携帯電話のメールを見せた。
7 Bに対して、原告1の不貞相手と推測できる女性の写真をしばしば見せた。
8 Bもいた休憩室において、本件水族館の女性客について、「今日のお母さんよかったわ…。」「かがんで中見えたんラッキー。」「好みの人がいたなあ。」などと言った。
<原告2の行為>
1 Bに対して、「いくつになったん。」「もうそんな歳になったん。結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで。」と言った。
2 Bに対して、「30歳は、二十二、三歳の子から見たら、おばさんやで。」「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃうん。」「精算室にBさんが来たときは22歳やろ。もう30歳になったんやから、あかんな。」などという発言を繰り返した。
3 Bに対して、女性従業員Cもいた精算室内で「30歳になっても親のすねかじりながらのうのうと生きていけるから、仕事やめられていいなあ。うらやましいわ。」と言った。
4 Bに対して、「毎月、収入どれくらい。時給いくらなん。社員はもっとあるで。」「お給料全部使うやろ。足りんやろ。夜の仕事とかせえへんのか。時給いいで。したらええやん。」「実家に住んでるからそんなん言えるねん,独り暮らしの子は結構やってる。MPのテナントの子もやってるで。チケットブースの子とかもやってる子いてるんちゃう。」などと繰り返し言った。
5 B及びCに対して、具体的な男性従業員の名前を複数挙げて「この中で誰か1人と絶対結婚しなあかんとしたら、誰を選ぶ。」「地球に2人しかいなかったらどうする。」と聞いた。
6 セクハラに関する研修を受けた後「あんなん言ってたら女の子としゃべられへんよなあ。」「あんなん言われる奴は女の子に嫌われているんや。」という趣旨の発言をした。
(判決の要旨)
控訴審判決
控訴審は、原告らの上記発言が本件文書で禁止された行為に該当するとしつつも、①Bから明白な拒否の姿勢を示されておらず、原告らはBから上記発言を許されていると誤信していたこと、②セクハラに対する懲戒に関する会社の具体的な方針を認識する機会がなく、事前に会社から警告や注意等を受けていなかったこと、などを原告らに有利な事情として、出勤停止処分は重すぎるとして、本件各処分を無効としました。
最高裁判決
最高裁は、原告らの発言等の内容は、女性従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来するものであること、原告らは管理職としてセクハラの防止のために部下職員を指導すべき立場にあったにもかかわらず、職場内において多数回のセクハラ行為等を繰り返したものであって、その職責や立場に照らしても著しく不適切であること、原告らの行為が一因となってBは退職を余儀なくされていることを考慮し、原告らの極めて不適切なセクハラ行為等が会社の企業秩序や職場規律に及ぼした有害な影響は看過し難いものというべきであるとし、本件各処分を有効としました。
控訴審判決が認定した①②の事情も、原告らに有利に斟酌し得る事情があるとはいえないとしました。