Case485 会社代表者の女性社員らに対する直接的又は間接的な退職強要があったと認められた事案・A社長野販売ほか事件・東京高判平29.10.18労判1179.47

(事案の概要)

 原告労働者ら4名は、被告会社に勤務していた女性従業員です。

 経理・総務係長である原告Bは、前社長の指示に従って前社長の不透明な交際費の処理をしていましたが、税務申告や親会社内部統制部の監査において改善の指導を受けたことがありませんでした。

被告会社は、平成23年10月に過去5年分の交際費について税務署の指摘を受け、修正申告して(本件修正申告)約2000万円の追加納税及び約600万円の延滞税などを支払いました。平成25年4月、前社長の後任として被告社長が代表取締役に就任しました。被告社長は、就任以降、朝礼などにおいて、「(係長に女性がいる(原告A及びB)ことに触れ、私ができないと思ったら降格もしてもらいます」、「自分の改革に抵抗する抵抗勢力は異動願いを出せ。50代はもう性格も考え方も変わらない」、「社員の入替えが必要」などと述べたり、営業統括部長に対して原告らを「ババア」呼ばわりして「こいつらの給料で派遣社員なら何人でも雇える。若いのを入れてこき使った方がいい」と述べるなどしました。平成25年4月に本件修正申告が親会社に発覚し、被告社長は同年7月に原告Bを不正経理を理由に降格処分としました。原告Bは不正経理について否定しましたが、被告社長は「泥棒しなさいと言われたら泥棒するのか」などと一方的に原告Bを非難しました。また、平成25年7月、被告社長は、人事評価により原告Aの夏季賞与を所定の算定額から20%(約13万円)減額、原告Bの夏季賞与を所定の算定額から30%(約20万円)減額しました。 原告らは、退職届を提出して被告会社を退職しました。被告会社は、原告ACに対しては自己都合退職扱いの退職金を支給し、原告Dに対しては要件を満たしていないとして退職金を支給しませんでした。

 本件は、原告らが以下の請求をした事案です。

⑴原告Bについて、降格処分が無効であるとして被告会社に対して差額賃金請求 ⑵原告ABについて、賞与減額が無効であるとして被告会社に対して差額賞与請求⑶被告会社及び被告社長に対して、パワーハラスメントによる損害賠償請求⑷被告会社に対して、被告会社に対して会社都合扱いの退職金請求

(判決の要旨)

⑴ 降格処分

 判決は、原告Bの経理処理に関して業務上の怠慢があるとはいえず、降格処分は処分の前提事実を欠き、就業規則の懲戒事由該当性の判断を誤るものであり無効であるとし、被告会社に対して差額賃金の支払を命じました。

⑵ 賞与

 原告A及びBに対する減額査定について、恣意的にされたもので裁量権の逸脱濫用に当たり無効であるとし、被告会社に対して差額賞与の支払を命じました。

⑶ パワーハラスメント

ア 原告Bについて

 判決は、被告社長が原告Bに懲戒や賞与減額の責任があると認識したことがやむを得ないといえる事情は見当たらず、被告社長は原告Bに対して正当な理由なく批判ないし非難を続け、無効な賞与減額及び降格処分を行うなどし、その結果原告Bが退職に至ったとしました。被告社長の行為は原告Bに退職を強要する違法なものであるとして、被告らに対して慰謝料100万円の支払を命じました。

イ 原告Aについて

 原告Aは、原告Bが正当な理由がない懲戒処分を受けるのが確実であることを認識し、被告社長から今後の会社の経営にとって原告Aが不要である旨を伝えられており、その結果原告Aが退職に至ったとしました。被告社長の行為は原告Aに退職を強要する違法なものであるとして、被告らに対して慰謝料70万円の支払を命じました。

ウ 原告C及びD

 判決は、原告C及びDは、被告社長の原告A及びBに対する上記違法行為を認識しており、今後自分たちにも同じような対応があると受け止めることは当然であり、その結果原告C及びDが退職に至ったとしました。

 被告社長の行為は原告C及びDにも間接的に退職を強いる違法なものであるとして、被告らに対して原告C及びDに対して各40万円の慰謝料を支払うよう命じました。

⑷ 退職金

 判決は、原告らは退職強要により退職を余儀なくされたとして、被告会社に対して、原告らに会社都合退職の退職金を支払うよう命じました。

※上告棄却により確定

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