Case521 派遣先との間の労働者派遣契約が解除されたことを理由とする派遣労働者に対する整理解雇が無効とされた事案・プレミアライン(仮処分)事件・宇都宮地栃木支決平21.4.28労判982.5

(事案の概要)

 本件は、派遣元である使用者との間で有期派遣労働契約を締結し、平成20年10月1日に、期間を平成21年3月31日までとして契約を更新していた本件労働者に対して、派遣先との間の労働者派遣契約が解除されたとして平成20年12月26日付けでなされた解雇の有効性が問題となった事案です。

(決定の要旨)

⑴ 概要

 決定は、期間の定めのある労働契約は、「やむを得ない事由」がある場合に限り、期間内の解雇(解除)が許され(労働契約法17条1項、民法628条)、このことは、その労働契約が登録型を含む派遣労働契約であり、たとえ派遣先との間の労働者派遣契約が期間内に終了した場合であっても異なるところはないとしました。

 また、この期間内解雇(解除)の有効性の要件は、期間の定めのない労働契約の解雇が権利の濫用として無効となる要件である「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」(労働契約法16条)よりも厳格なものであり、このことを逆にいえば、その無効の要件を充足するような期間内解除は、明らかに無効であるということができるとしました。

 決定は、以下の各事情を総合すれば、本件解雇について、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」に該当することは自明であり、したがってまた、本件労働契約の期間途中の解雇(解除)について、「やむを得ない事由」があると解し得ないことは、明白であるとした。

⑵ 人員削減の必要性

 決定は、使用者の経営状況等は、相当に厳しいものと評価することができるとしつつ、しかしながら、他方、使用者の財務の状況について、①利益剰余金は、98億3504万1038円という多大の金額であり、②自己資産比率は、一般的に30パーセントを超えれば優良な会社と評価されるところ、約60.5パーセントであって健全であり、③流動比率は、一般的に200パーセント以上であることが理想的とされ、経済産業省によれば大企業で131.3パーセントであるところ、約243パーセントであって健全であり、④当座比率も、一般的には100パーセント以上が理想とされているところ、約123.6パーセントであって健在であることが一応認めることができるとしました。

 そして、使用者が本件解雇の予告をした平成20年11月の時点で、派遣労働者全員に対し、希望退職の募集をしたならば、これに応じた派遣労働者が多数に及んだものと推認されるところ、上記認定に係る債務者の財務状況によれば、平成20年1月以降に、本件労働者1名ないし少数の残りの派遣労働者との間の派遣労働契約を期間内であるにもかかわらず敢えて解消し、同年1月から3月までの期間内に生ずる賃金の支出を削減する必要性は、およそ認め難いといわざるを得ないとしました。

⑶ 解雇回避努力

 決定は、使用者は、派遣先から平成20年11月中旬に労働者派遣契約を同年12月26日限り解除する通知を受けた後、本件労働者ら派遣労働者を解雇する以外の措置を何らとっていないとし、使用者が本件のように直ちに派遣労働者の解雇の予告に及ぶことなく、使用者において派遣労働者の削減を必要とする経営上の理由を真摯に派遣労働者に説明し、希望退職を募集ないし勧奨していれば、これに応じた派遣労働者が多数に及んだであろうことは、推認するに難くなく、そうすれば、本件労働者1名ないし残余の少数の派遣労働者の残期間内に生ずる賃金の支出を削減するために、期間内の解雇に敢えて及ぶことはなかったであろうと推測することができるとしました。

 また、使用者は、本件労働者との間の派遣雇用契約書において「派遣労働者の責に帰すべき事由によらない本契約の中途解約に関しては、他の派遣先を斡旋する等により、本契約に係わる派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ることとする。」と約定し、この合意の内容を上記契約書に明記しており、かつ、本件解雇予告通知書においても、「弊社と致しましても、引き続き他の就業先の確保に努め、責任をもって職務を全うする所存でごさいますので、その節に付きましては、ご理解・ご協力の程、宜しくお願い申し上げます。」と記載し、これを口頭で告知し、本件労働者ら派遣労働者に対して、これを承諾する文言欄に署名押印することを求めていながら、平成10年11月の本件解雇の予告以降、本件労働者に対して、具体的な派遣先を斡旋するなど、就業機会の確保のための具体的な努力を全くしておらず、このことは、上記の解雇予告通知書の記載は、あたかも、専ら解雇手続を円滑に進めるための方便として記述していたものと受け止められかねないものであり、看過し難い態度であるというべきであるとしました。また、決定は、監督官庁である厚生労働省が、同省労働基準局長・職業安定局長・平成20年12月10日「労働者派遣契約の中途解除等への対応について」を発して、派遣会社の事業所に対して、派遣労働者の新たな就業機会を確保するよう指導し、平成11年の労働省告示第137号(最終改訂・平成20年厚生労働省告示第37号)による「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」において、同じく、派遣元事業主に対して、派遣労働者に対する就業機会の確保を図るよう指導していることを指摘し、しかしながら、使用者は、単に、「紹介することのできる具体的な派遣先が無かった」とするだけで、他の派遣会社の派遣労働者に対する斡旋努力の事実も併せて考慮すれば、自らは、契約上の法的義務のほか、この労働基準行政上の指導にも違背し、また、派遣企業に求められている社会的な要請への対応も怠ったものと推認せざるを得ないとしました。

⑷ 手続の相当性

 決定は、使用者は、平成20年11月に自ら招集した会合の冒頭に書面と口頭で通知した解雇予告による解雇日である平成20年12月26日を契約終了の基準日としながらも、派遣労働者各人の有給休暇の残日数を使用した解雇の不利益軽減措置(「契約終了日の延長の取扱い」と「社宅利用の延長の措置」)を取っているものではあるが、一方では、使用者は、派遣労働者の解雇の必要性に関して、本件労働者ら派遣労働者に対して、派遣先との労働者派遣契約が終了することを一方的に告げるのみであって、使用者の経営状況等を理由とする人員削減の必要性の説明を全くしておらず、かえって、解雇告知の会合の状況によれば、使用者は、今回の解雇が当然のもので、所与の前提であるかのように各種書面を予め準備した上で、淡々と一方的に解雇の手続を進めたといわざるを得ず、その解雇手続は、相当なものということはできないとしました。

 また、本件における解雇手続は、使用者が、後日、本件労働者ら派遣労働者から、使用者による解雇の効力を争われることのないよう、派遣労働者らによる任意の意思決定に基づく「合意解約」であるとの体裁を整えて、派遣労働契約を全て解消することを企図しながら、その意図を秘して、派遣労働者全員に退職届を作成するよう、逐一、指示して行われたものと認められるのであり、そのようにして退職届を徴収した使用者は、その目的のとおり、その後、この退職届の提出をもって有効な合意解約が成立しているとの主張を強行し、かつ、書面の通知による明白な解雇予告の存在すら否定しているのであって、この解雇の手続は、労使間に要求される信義則に著しく反し、明らかに不相当であるとし、使用者がそれまで雇用してきた労働者の地位を喪失させる解雇の手続を取るに当たり、現に使用者の指揮監督下にある労働者の信頼を利用し、かような策を弄することは、著しく正義・公平の理念に反するものとして、社会通念上、到底容認することができないとしました。

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