Case532 転籍出向に伴う退職の意思表示を心裡留保により無効とし解雇理由を示さずにされた解雇について慰謝料請求まで認めた事案・アイウエア事件・東京高判令4.1.26労判1310.131
(事案の概要)
原告労働者は、被告会社と無期雇用契約を締結し、平成25年6月1日から都内の本社で勤務し、同月13日から中国上海市にある本件塾において語学の講師として赴任しました。
被告会社は、原告が平成25年9月30日付けで被告会社を退職し、中国法人に転籍出向したと主張しており、原告は、被告会社に対して、同日付けの退職願を提出しています。しかし、原告は中国法人での労働条件について説明を受けておらず、その後も本件会社から海外赴任規定の適用を前提とした手当の支給を受けていました。
原告は、労働時間管理等について本件会社の従業員に対して複数回改善を求めていました。平成28年12月18日、上海を訪れた本件会社の代表者は、原告に対して「原告はこの会社に不満がたくさんあるようだ。」「うちは出勤から退勤まですべてを勤務時間とするようなスタイルではない。きっちりやりたいならパートで働く方が合っているのではないか。社員同士は疑似家族のような関係だと思っている。」「(社内イベントについて)賛同できない人は自分の会社にはいらない。原告はそういうのに参加していない。」などと否定的な意見を述べました。そして、同月27日、本件会社は原告に対して雇用契約終了日を平成29年1月26日とする「雇用契約終了について」と題するメールを送信しました。解雇理由についての説明はなく、本件会社は解雇理由証明書の請求にも応じませんでした。
本件は、原告が本件会社に対して、平成25年の退職願による退職の意思表示及び平成29年の解雇の無効を主張し、再就職までのバックペイ及び慰謝料等を請求した事案です。
原告の残業代請求も認められています。
(判決の要旨)
1 退職の意思表示
判決は、退職願による原告の退職の意思表示が不存在であるとはいえないとしつつ、原告による退職の意思表示は、海外の現地法人との新たな雇用契約の締結を前提としたうえで、真に本件会社との雇用契約を終了させるとの意思に基づくものではなく、かつ本件会社は、原告による退職の意思表示が真意に基づくものではないことについて悪意であったと認められるから、原告による退職の意思表示は心裡留保によって無効であるとしました。
2 解雇
判決は、本件会社は、勤務時間等の労働環境について改善を求めていた原告に対し、本件会社代表者においてそのような原告の意見に対する否定的な発言をしたうえで、解雇理由を示すことなく本件解雇を行い、その後も解雇理由について告知しなかったものであり、このような本件会社による解雇権の濫用の程度は悪質であるとして、本件会社は無効であるうえに、原告に対する不法行為を構成するとして、バックペイの支払のほかに慰謝料30万円等の損害賠償を認めました。
※確定