Case536 上司が部下の財布と通帳の中身を点検したことや出社確保のために携帯電話や運転免許証を預かった行為が違法とされた事案・コスモアークコーポレーション事件・大阪地判平25.6.6労判1082.81
(事案の概要)
原告労働者は、平成21年3月から平成23年6月27日まで、被告会社において美容器具の営業を行っていました。
原告は、会社に入社後、金融業者から借金をしていました。それを知った被告上司は、返済の指導のためとして、約半年間、月1回の頻度で定期的に原告の財布と通帳の中身を点検しました。
また、被告上司は、退職を申し出た原告に対して、翌日も出勤して引継ぎをさせるために、原告の運転免許証を預かったり、翌週も出勤させるために原告の携帯電話と運転免許証を預かったりしました。
さらに、被告上司は、業務上不始末を連発する原告に対して感情的になり、原告の右ひじや右太ももを蹴ったり、原告の右胸を拳で強く小突いたりしていました。
本件は、原告が、被告上司及び会社に対して損害賠償請求した事案です。
(判決の要旨)
1 所持品検査
判決は、そもそも使用者が従業員に対し所持品検査を行うことは、業務上の不正防止等、企業の経営維持にとって必要とされる場合であっても、当然に適法視されるものではなく、それを必要とする合理的理由があって、就業規則等の根拠に基づき、一般的に妥当な方法と程度で、職場の従業員に対し画一的に実施されるなどの要件を満たすことが必要と解されるとしました。ましてや、使用者といえども、従業員の私的領域にわたる指揮監督権を有するものではないことは当然であって、たとえ私生活面での規律を正すことが業務の改善に資することが期待されるとしても、そのような目的で所持品検査を行うことが正当化される余地はないとしました。
また、雇用契約上の上下関係を背景に、財布や通帳の点検をすると言われた場合、抵抗することなく点検に応じたからといって、真摯な同意があったと認めることは相当でないとし、被告上司が原告の財布と通帳を点検したことが不法行為に当たるとしました。
2 携帯電話や運転免許証を預かった行為
判決は、原告の財産権の対象である私物を占有することで、生活への支障を生じさせて出社を確保するような措置は、およそ社会通念に照らして許容されるものとはいえないとし、被告上司が原告の携帯電話や運転免許証を預かった行為が不法行為に当たるとしました。
3 結論
判決は、被告上司による暴行についても不法行為に当たると認め、被告上司の一連の行為を不法行為として、被告上司及び会社(使用者責任)に対して慰謝料20万円の支払いなどを命じました。
※確定