Case540 総合職にのみ社宅制度を適用し一般職に適用しないことが女性労働者に対する間接差別に該当するとされた事案・AGCグリーンテック事件・東京地判令6.5.13労判1314.5

(事案の概要)

 女性である原告労働者は、平成20年7月から被告会社で一般職の正社員として勤務していました。

 会社では、転勤がある総合職には社宅制度があり、転勤のない一般職には社宅制度がありませんでした(代わりに住宅手当が支給されていました。)。もっとも、平成23年7月以降の実際の運用は、総合職でありさえすれば、転勤の有無にかかわらず、通勤圏内に自宅を有していない限り希望すれば社宅制度が適用されていました。社宅制度を利用した総合職は、1名を除き全員男性でした。

 原告は、会社に対して、総合職にだけ社宅制度が適用されることが、女性に対する間接差別に当たる等と主張して、損害賠償請求しました。

(判決の要旨)

(均等法7条)

 事業主は、募集及び採用並びに前条各号に掲げる事項に関する措置であつて労働者の性別以外の事由を要件とするもののうち、措置の要件を満たす男性及び女性の比率その他の事情を勘案して実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置として厚生労働省令で定めるものについては、当該措置の対象となる業務の性質に照らして当該措置の実施が当該業務の遂行上特に必要である場合、事業の運営の状況に照らして当該措置の実施が雇用管理上特に必要である場合その他の合理的な理由がある場合でなければ、これを講じてはならない。

(均等法施行規則2条)

法第七条の厚生労働省令で定める措置は、次のとおりとする。

一 労働者の募集又は採用に関する措置であつて、労働者の身長、体重又は体力に関する事由を要件とするもの

二 労働者の募集若しくは採用、昇進又は職種の変更に関する措置であつて、労働者の住居の移転を伴う配置転換に応じることができることを要件とするもの

三 労働者の昇進に関する措置であつて、労働者が勤務する事業場と異なる事業場に配置転換された経験があることを要件とするもの

 判決は、均等法7条及び同施行規則2条2号には住宅の貸与が挙げられていないものの、間接差別(①性別以外の事由を要件とする措置であって、②他の性の構成員と比較して、一方の性の構成員に相当程度の不利益を与えるものを、③合理的な理由がないときに講ずること)は、均等法施行規則に規定するもの以外にも存在し得るのであって、均等法7条には抵触しないとしても、民法等の一般法理に照らし違法とされるべき場合は想定されるとし、均等法の趣旨に照らし、同法7条の施行(平成19年4月1日)後、住宅の貸与であって、労働者の住居の移転を伴う配置転換に応じることができることを要件とするものについても、間接差別に該当する場合には、民法90条違反や不法行為の成否の問題が生じると解すべきであり、会社の社宅制度に係る措置についても同様の検討が必要であり、すなわち、措置の要件を満たす男性及び女性の比率、当該措置の具体的な内容、業務遂行上の必要性、雇用管理上の必要性その他一切の事情を考慮し、男性従業員と比較して女性従業員に相当程度の不利益を与えるものであるか否か、そのような措置をとることにつき合理的な理由が認められるか否かの観点から、会社の社宅制度に係る措置が間接差別に該当するか否かを均等法の趣旨に照らして検討し、間接差別に該当する場合には、社宅管理規程の民法90条違反の有無や会社の措置に関する不法行為の成否等を検討すべきであるとしました。

 そして、会社は、社宅制度につき労働者の住居の移転を伴う配置転換に応じることができることを要件とする一方で、その運用面においては、平成23年7月以降の社宅制度の実際の運用は、総合職でありさえすれば、転勤の有無や現実的可能性のいかんを問わず、通勤圏内に自宅を有していない限り希望すれば適用されるというのが実態であり、その恩恵を受けていたのは、1名を除きすべて男性であったとしました。

 また、措置の具体的な内容として、会社の社宅利用者には、会社の負担率も、40歳以上の独身寮対象者を除き、家賃月額8.2万円までは80%、8.2万円超12万円までは20%とされており、社宅利用者である総合職は、一般職に支給されていた住宅手当(3000円~1万2000円)を上回る経済的恩恵を受けており、その格差はかなり大きいとしました。

 以上から、判決は、平成23年7月以降、会社が、社宅制度の利用を、総合職に限って認め、一般職に対しては認めていないことにより、事実上男性従業員のみに適用される福利厚生の措置として社宅制度の運用を続け、女性従業員に相当程度の不利益を与えていることについて、合理的理由は認められず、雇用分野における男女の均等な待遇を確保するという均等法の趣旨に照らし、間接差別に該当するとして、社宅制度が適用されていた場合の補助と住宅手当との差額当約323万円と、慰謝料50万円等の損害を認めました。

※確定

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