【解雇事件マニュアル】Q56合意により試用期間を延長できるか
労働契約上に試用期間延長の根拠がない場合に、労働者と使用者との合意により試用期間を延長することが許されるか。
当初の試用期間満了時に使用者が労働者を有効に本採用拒否できる場合に、これを猶予して使用者が一方的に試用期間を延長することも、労働者の不利益にならないため許される余地がある。このような場合に、労働者と使用者との合意により試用期間を延長することも、当然に許される余地があるであろう。
他方で、当初の試用期間満了時に使用者が労働者を有効に本採用拒否できない場合でも、労働者と使用者との間で個別に真摯な合意があれば、試用期間を延長することができるとの見解もあるが、これに対しては、就業規則の最低基準効(労基法93条)によりその合意が無効とされる場合があると指摘されている(白石『労働関係訴訟の実務』451頁)。私見であるが、仮にこのような場合に個別合意による試用期間延長を認めるとしても、本来本採用拒否できない場合に試用期間を延長することは労働者にとって一方的な不利益変更であるため、労働者の同意の有無については、労働者の同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきであろう(山梨県民信用組合事件・最二小判平28.2.19労判1136.6参照)。