Case553 獣医師の能力不足を理由とする本採用拒否を無効とするとともに休日割増を含むのか判然としない固定残業代の定めを無効とした事案・ファニメディック事件・東京地判平25.7.23労判1080.5

(事案の概要)

 獣医師である原告労働者は、被告会社と試用期間6か月の雇用契約を締結しました。

 会社は、臨床能力の不足(院内で実施する学科試験の成績が悪い、診療内容に多くの問題がある、カルテの記載に不備が多い、診療検数・再診件数が少ないなど)、同僚との協調性の乏しさ、必要な教育の受講の拒否(院内の勉強会への参加の拒否)を理由に試用期間満了をもって原告を本採用拒否しました。

 また、原告の基本給は月30万2000円でしたが、会社の就業規則には、基本給について「以下の式により算出される金額を75時間分の時間外労働手当相当額及び30時間分の深夜労働手当相当額として含むものとする。75時間分の時間外労働手当相当額=(能力基本給+年功給)×34.5%、30時間分の深夜労働手当相当額=(能力基本給+年功給)×3.0%」との固定残業代の定めがありました。

 本件は、原告が会社に対して、本採用拒否の無効を主張して雇用契約上の地位の確認等を求めるとともに、固定残業代の無効を主張して残業代の支払いを求めた事案です。

(判決の要旨)

1 本採用拒否

 判決は、試用期間中の労働契約は試用期間中の業務適格性が否定された場合には解約し得る旨の解約権が留保された契約であると解されるから、使用者は留保した解約権を通常の解雇よりも広い範囲で行使することが可能であるが、その行使は解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認され得る場合でなければならないとしました。

 そして、原告が獣医師として能力不足であって改善の余地がないとまではいえないこと、患畜が多い土日に勤務しておらず、半年の間に勤務場所の移動もあった原告について診療件数等を能力の判断基準とすることは酷な面があること、出席に関する明確な業務指示のない勉強会への出席状況を勤務態度の評価に反映することには抑制的であるべきこと、協調性の欠如については具体的な事実関係が認定されていないことなどから、本件本採用拒否は客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認され得る場合には当たらないとして、本採用拒否を無効としました。

2 固定残業代

 判決は、基本給に時間外労働手当が含まれると認められるためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分が判別できることが必要であるところ、その趣旨は、時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分が労基法所定の方法で計算した額を上回っているか否かについて、労働者が確認できるようにすることにあるとしました。

 そして、確かに就業規則に従って計算することで、通常賃金部分と割増賃金部分の区別自体は可能であるが、75時間分という時間外労働手当相当額が2割5分増の通常時間外の割増賃金のみを対象とするのか、3割5分増の休日時間外の割増賃金をも含むのかは判然とせず、本件固定残業代規定は、割増賃金部分の判別が必要とされている趣旨を満たしているとはいい難いとして、固定残業代を無効としました。

※控訴

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