Case561 月間スケジュールによる1か月単位の変形労働時間制を無効とし日中手当が深夜割増賃金の算定基礎賃金に含まれるとした事案・社会福祉法人幹福祉会事件・東京高判令5.10.19労判1318.97

(事案の概要)

 障害者福祉サービスを提供する被告会社で、ケアスタッフとして居宅支援サービス等の業務に従事していた原告労働者の残業代請求事件です。

1 変形労働時間制

 本件では1か月単位の変形労働時間制の有効性が争点となりました。

 就業規則によれば、ケアスタッフの就労は、1か月を平均して1週40時間の範囲内で1か月単位の変形労働時間制によるとされ、所定労働時間は、具体的な始業時刻(最初の訪問先の訪問時刻)および終業時刻(最後の訪問先の退出時刻)を記載した月間スケジュールの作成によって特定するとされていました。

 月間スケジュールは、コーディネーター(常勤職員)が利用者の介助派遣スケジュールとケアスタッフの予定を確認のうえ、ケアスタッフの都合に配慮して、労働条件通知書に明記されているとおり前月25日までに作成し、前月28日までにケアスタッフに告知するが、事業所または利用者の都合、移動時間その他やむを得ない事情により始業・終業時刻を繰り上げ、繰り下げることがあること、月間スケジュールで決めた具体的な勤務日および勤務時間は、ケアスタッフの都合により、または事業所または利用者の都合により、当該日時の24時間前までの申出により、これを変更することができるとされていました。

2 基礎賃金

 また、午前5時から午後10時までの時間帯に勤務する場合に経験年数を基に算定して支給される日中手当が深夜割増賃金の算定基礎賃金となるか、時給に加算して支払われる処遇改善手当が割増賃金の算定基礎賃金となるかも争点となりました。

(判決の要旨)

1 変形労働時間制

 判決は、会社の業務実態に照らすと、就業規則それ自体に各ケアスタッフの各週・各日の所定労働時間及び始業・終業時刻を具体的に特定して記載することは困難であるから、就業規則と勤務割表である月間スケジュールとを合わせて具体的な特定をすることも許容されるとしました。もっとも、労基法32条の2第1項が所定労働時間の特定を求める趣旨に照らすと、まずは就業規則において、月間スケジュールによる所定労働時間、始業・終業時刻の具体的な特定がどのようなものになる可能性があるか労働者の生活設計にとって予測が可能な程度の定めをする必要があるとしました。

 そして、会社の就業規則で始業・終業時刻とされている「最初の訪問先の訪問時刻」「最後の訪問先の退出時刻」は、いつでもあり得る時刻であって、何ら始業・終業時刻を予測し得る基準とならず、「利用者の都合」も、変形期間の所定労働時間がどのようなものになる可能性があるかを予測し得る基準としては機能しないことに加え、月間スケジュールがケアスタッフと所定労働時間を合意することによって作成する旨の定めは就業規則にないことに鑑みれば、就業規則によって変形期間内の各週・各日の所定労働時間が始業・終業時刻ともに特定されていたとはいえないとして、変形労働時間制を無効としました。

2 基礎賃金

 判決は、労基法37条所定の割増賃金の基礎となる「通常の賃金」とは、当該法定時間外労働ないし深夜労働が、深夜ではない所定労働時間中に行われた場合に支払われるべき賃金であるとし、原告が深夜労働時間帯以外の時間に労働をした場合に支払われる日中手当は通常の労働時間の賃金に含まれ、また除外賃金にも該当しないから、深夜割増賃金の算定基礎賃金に含まれるとしました。

 また、処遇改善手当も、時給に上乗せされて毎月定期的に支払われているものであり、臨時的、突発的事由に基づいたものではなく、臨時に支払われた賃金に該当せず、その他の除外賃金にも該当しないから、割増賃金の算定基礎賃金に含まれるとしました。

※上告棄却・不受理により確定

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