【パワハラ】Case591 退職勧奨・配転・賃下げ・仕事外しが違法なパワハラに該当するとされた事案・メドエルジャパン事件・東京地判令5.4.28労判1328.65【労働弁護士が選ぶ今日の労働裁判例】

事案の概要

 被告会社のA社長は、原告労働者に対し、自主退職しなければ解雇すると述べたり、退職するか給与を半額にする契約書にサインするか選択するように述べるなどして執拗な退職勧奨を行い、退職勧奨を拒絶した原告をマーケティング部マネージャーから総務アシスタントへ配置転換・降格し、原告の業務を掃除、片付け、粗大ごみ担当としました(本件配転命令①)。さらに、原告の基本給を半額以下に減額しました(本件賃下げ①)。約1年後、代理人の交渉により原告の基本給は元の金額に戻され、減額されていた差額賃金も支払われました。

 その後、原告は形式的には1人部署であるパブリックリレーション部(PR部)の所属とされましたが、同部は間もなく廃止され、所属部署が不明確で仕事がない状況が続きました。被告は、原告の基本給のうち3万円を役職手当に変更しました(本件賃下げ②)。原告は、部署ごとのメーリングリストにも登録されず情報を隔絶され、社員の連絡表にも記載されず、席も他の従業員から遠く離れたパーテーションで仕切られた一角に追いやられました。

 さらに、被告は、原告を修理課への配置転換し(本件配転命令②)、原告をマネージャーから一般職に降格し、役職手当を廃止(1年間は激変緩和措置で「その他手当」として支給)しました(本件賃下げ③)。

 原告はこれらの被告の行為が職場環境配慮義務違反(パワーハラスメント)に当たるとして被告に損害賠償を求めるとともに、賃金減額の無効を主張しました。

判決の要旨

1 パワハラ

 裁判所は、被告のA社長による退職勧奨は、原告の意思を不当に抑圧し精神的苦痛を与えるものであり、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した違法な退職勧奨であると認めました。

 本件配転命令①についても、原告に一定の課題があったとしても、その職歴と明らかに異なる業務(掃除等)を担当させる業務上の必要性を直ちに認めるのは困難であり、退職勧奨を拒絶した原告を退職に追い込むため、または合理性に乏しい大幅な賃金減額を正当化するためであったと推認せざるを得ないとして、人事権を濫用した違法な配転命令であると判断しました。

 本件賃下げ①についても、原告の同意がないこと、当時の給与規程に賃下げの根拠となる規定が存在しないことから、違法であると認めました。その後に差額賃金が支払われたとしても違法性は左右されないとしました。

 被告が原告を担当業務から外して以降、長期間にわたり具体的な仕事を与えず、情報から隔絶させ、社員連絡表から外したり、座席を隔離したりした一連の行為は、原告に無力感や疎外感を与え、就業環境を著しく悪化させる行為として職場環境配慮義務に違反すると認めました。

 以上に対する慰謝料として、判決は被告に200万円の支払いを命じました。

2 賃金減額

 本件賃下げ②(基本給の役職手当への変更)は根拠がなく無効であるとしました(したがって当然本件賃下げ③(役職手当の廃止)も無効)。ただし、令和3年12月までは変更前の基本給と同額が支払われていたため、同月までは弁済済みであり、原告は令和4年1月分以降の未払賃金3万円の支払請求権を有するとしました。

※控訴後和解

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