【降格降給】Case626 約20年前から複数回に渡る給与減額措置が労働者の同意を欠き無効であり不法行為を構成するとした事案・弁理士法人乙山国際特許事務所ほか1社事件・東京地判令6.8.21労判1335.56

【事案の概要】

原告労働者Xは、平成13年にY社の前身である弁理士法人に入所し、特許関連事務に従事していました。Xは、平成17年に設立されたY社と雇用契約を締結しました。Xの給与は、遅くとも平成17年4月時点では月額基本給41万6000円でした。

その後、Xの給与体系は、Xの同意がないまま複数回変更されました。主な変更は以下のとおりです。

1. 平成17年8月: 固定残業代制が導入され、基本給が減額されました。

2. 平成26年4月: 基本給が半額以下(14万1656円)に減額され、代わりに出来高払いによる特別手当が導入されました。

3. 平成30年4月: Xが休職から復職した際、Y社は実質的に出来高払制の給与体系を採用しました。

Xは、これらの給与減額措置はいずれも無効であるとして、本来の賃金(月額41万6000円)に基づき、未払賃金(時効にかかっていない令和2年4月以降分)の支払い等をY社に求めました。さらに、一連の給与減額措置は不法行為にあたるとして、損害賠償(慰謝料等)を請求しました。

【判決の要旨】

1. 賃金減額の有効性(未払賃金請求)

判決は、山梨県民信用組合事件の規範に基づき、給与減額に対するXの同意の有無を判断しました。

結論として、判決はいずれの給与減額についてもXの同意は認められないとしました。平成30年4月の復職時の賃金体系については、Xの「了解しました。ありがとうございました。」という返信をもってしても、同意したものとは評価できないとしました。

そして、Xの給与は月額41万6000円と認めるのが相当であるとして、未払賃金請求が認められました。

2. 不法行為の成否(損害賠償請求)

判決は、平成26年4月の出来高払制の導入は、Xから強い反発があったにもかかわらず、基本給を半額よりも低い金額にした上で、就業規則にも定めのない出来高払制とするものであり、不法行為を構成すると認めるのが相当であるとしました。

また、平成30年の復職後のY社の対応についても、出来高払制を維持し、後に出来高払制を取りやめた後も基本給を月額24万円程度の水準に留めたY社の対応は、上記の給与減額措置と一連の行為として不法行為を構成するとしました。

そして、慰謝料50万円等の支払いが認められました

※確定

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