【労災】Case627 休職の原因がパワーハラスメントによる適応障害であるとして自然退職扱いが無効とされた事案・TCL JAPAN ELECTRONICS事件・東京地判令5.12.7労判1336.62

【事案の概要】

2018年6月から被告Y社で働いていた原告労働者Xは、直属の上司Bらからパワーハラスメント行為を受けたと主張していましたY社は、2019年3月、Xに対し、Xが上司Bの業務上の指示に反抗してトラブルを発生させたなどと告げ、退職勧奨①を行いました。また、Y社は、同月、Xに対し、上長の指揮命令に従わず、上長に反抗的な態度を示し、反省を拒むなどとして、本件訓戒処分を行ったうえ、再度退職勧奨②を行いました。

Xは、同月、適応障害と診断され、自宅療養を要するとの指示を受け、同日以降欠勤しました。Y社は同年4月に原告に対し、休職を命令しました。

被告は、休職期間を延長したうえ、同年11月、延長後の休職期間満了日時点でも休職事由が消滅したとは認められないとして、Xを自然退職扱いとする旨を通知しました。

Xは、休職期間満了による退職扱いは無効であるとして、雇用契約上の地位確認、未払賃金、およびパワハラによる安全配慮義務違反に基づく損害賠償(慰謝料等)を求めて提訴しました。

【判決の要旨】

1. パワーハラスメント行為の有無

裁判所は、Xが主張する一連の行為について検討し、以下の行為をパワーハラスメント行為に該当すると認めました。

• Bによる勤務時間中の読書に対する口頭注意および警告

 Xが自席で物流業務に関連する書籍を読んでいたところ、BはXに事実確認することなく、Xに対して就業規則違反を認めるよう求めるなどした。

• Bによる転送メールに関する注意指導

 Xが情報共有の趣旨で3通のメールをBに転送したところ、BはXに対して「相手のメールボックスを汚してはいけないことを常に考えるようにしてください」「厳重注意処分を出します」「改善が見られない場合は訓戒警告を出します」などとメールした。

• BがXの遅延証明書に合理的な理由なく承認印を押さず、返却しなかったこと

• Bによる業務連絡の在り方に関する反省文の提出指示

 BはXに対し、不合理に反省文の提出、再提出を求め、提出しない場合には減給処分にせざるを得ないと警告した。

• 本件退職勧奨①および②ならびに本件訓戒処分(これらは事実確認等が不十分なまま行われ、社会通念上相当なものとはいえないため)

2. 休職期間満了による退職扱いの有効性

裁判所は、上記のパワハラ行為や退職勧奨等の一連の出来事を総合的に評価すると、その心理的負荷の程度は「強」に当たると評価できるとし、Xの適応障害の発症には個人的素質の影響は認められるものの、Y社の業務に内在する危険が現実化したものであると認めるのが相当であるとして、業務起因性を肯定しました。

したがって、労働基準法19条1項類推適用により、Xを退職扱いとすることは許されず、本件雇用契約は継続していると認められました。

3. 安全配慮義務違反に基づく損害賠償

Y社は、パワハラ行為が発生している状況において、上司Bに対しXへの対応について必要かつ相当な方法により指導する等の措置を講じる義務を怠ったこと、およびXとBの関係悪化の原因がXにあることを前提として退職勧奨等を行ったことについて、安全配慮義務違反が認められました。

そして、Xが被った精神的苦痛に対する慰謝料額は50万円が相当とされましたが、Xの気分変調症やパーソナリティ障害等が衝突や関係悪化を深刻化させたことに影響しているとして、2割の素因減額が適用されました。

4. その他の請求

Xの未払賃金請求および休日出勤に係る未払賃金請求についても、一部認められました。

※控訴後和解

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