【過労死】Case655 警察官の過労自殺について公務災害の要件を満たさないとした原判決を破棄し県の安全配慮義務違反を認めた最高裁判例・静岡県(県警察・両親側)事件・最二小判令7.3.7労判1342号14頁
【事案の概要】
静岡県警察に所属し、G1交番の交番長として勤務していた亡甲野一郎警部補(以下、一郎)が、平成24年3月に自殺したことにつき、一郎の両親である原告らが、被告静岡県に対し、安全配慮義務違反に基づく国家賠償を求めて提訴した事案です。
一郎の妻子が原告となった別訴(>静岡県(県警察・妻子側)事件・最二小判令7.3.7労判1341号71頁)と同時に判断がなされました。
一郎は、交番長としての通常業務に加え、管内で連続発生した窃盗事件の対応(夜間・非番時の自主的見回り等)、新人実習生の職場実習指導員としての業務、さらにはオランダでの海外研修(GSE)の県警代表メンバーとしての事前研修参加や英語でのプレゼンテーション準備など、複数の業務が重なる状況にありました。その結果、一郎の自殺前1か月間の時間外勤務時間は112時間15分に達し(その前の1か月間は約43時間)、わずか1日の休みを挟んで14日間の連続勤務(24時間拘束の当直を含む)を2回繰り返すなど、過酷な勤務状況にありました。一郎は遅くとも平成24年3月上旬にはうつ病エピソード等の精神疾患を発症しており、車内で練炭自殺を遂げました。
一審(広島地裁福山支部)は静岡県の責任を認め請求を一部認容しましたが、二審(広島高裁)は公務災害の認定基準における「質的に過重な業務を行った」とはいえず、上司らが自殺を予見することもできなかったとして一審判決を取り消したため、原告らが最高裁へ上告しました。
【判決の要旨】
最高裁は、二審の判断を破棄し、静岡県の損害賠償責任を肯定した上で、損害額の算定のため事件を広島高裁に差し戻しました。
最高裁は、民間企業等における使用者の安全配慮義務に関する「電通事件」最高裁判決の法理を引用し、都道府県と警察官との間においても同様の義務が及ぶとして、「使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり,使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は,使用者の上記注意義務の内容に従ってその権限を行使すべきものである。この理は,都道府県とその都道府県が置く都道府県警察の警察官との間においても別異に解すべき理由はない。そして,上記警察官に対し職務上の指揮監督を行う権限を有する者がその権限を行使するに当たって上記注意義務に違反したことを理由として,上記都道府県が国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負うか否かを判断するに当たっては,上記警察官が従事した業務に係る諸般の事情を総合的に考慮すべきものであり,その際には,〔公務災害の〕認定基準において示されている知見をしん酌し得るものではあるが,認定基準が示す要件に該当しないことをもって直ちに上記損害賠償責任が否定されるものではない。」としました。
その上で、一郎は自殺直前の時期に、交番長としての業務に従前から行っていた業務とは異なる複数の業務が加わり、時間外勤務が倍以上に急増して112時間を超えました。また、当直を含む過酷な連続勤務を行っていたことから、これらの業務は相当程度の疲労や心理的負荷等を蓄積させるものであり、精神疾患の発症および自殺という結果を招来した関係(高度の蓋然性)があると認めました。
また、一郎の上司ら(地域課長ら)は、一郎がこれら複数の業務を抱え、時間外勤務実績報告書も提出されていたことから、一郎の過重な業務状況を当然に把握できる立場にありました。長時間労働等による精神疾患の発症・自殺の危険性は広く知られており、上司らは一郎の負担を軽減する措置を講じなければ自殺に至る可能性があることを認識できたにもかかわらず、具体的な措置を講じませんでした。したがって、一郎の上司らは注意義務を怠り、これによって一郎が精神疾患を発症して自殺するに至ったといえるため、静岡県は国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を負うと判断されました。


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