Case475 バス乗務員が始発まで折り返し場所で待機している時間が労働時間に当たるとされた事案・させぼバス事件・福岡高判令5.3.9労判1300.5

(事案の概要)

 路線バスの乗務員である原告労働者ら16名が、被告会社に対して残業代請求等をした事案です。主に以下の点が争点となりました。

・中休勤務をした場合に労働時間の長短にかかわらず、1回の勤務につき一律240円支給される特殊勤務手当が割増賃金の基礎賃金に含まれるか

・次の出発まで待機する折り返し待機場所での待機時間が労働時間に当たるか

・休憩時間の開始直後と終了直前に実作業をしなければならなかった時間が労働時間に当たるか

・シフトと異なる追加の乗務を割り当てられた場合に一律に加算されていた20分手当が既払いの残業代に該当するか

(判決の要旨)

1.特殊勤務手当が基礎賃金に含まれるか

 判決は、特殊勤務手当は、時間外、休日、夜間の割増賃金とは別に、労働時間の長短にかかわらず1回の勤務につき一律240円で支給されるものであって、労基法37条所定の割増賃金と同じ性質を持たないものであり、かつ除外賃金にも該当しないとして、基礎賃金に含まれるとしました。

2.折り返し待機時間の労働時間性

 判決は、折り返し待機時間のうち、始発バス停で待機するものについては、ドアを開けた状態で待機して乗客が来たらバスに乗車させるなどの対応をする必要があったことから、労働からの解放が保障されていたとはいえず、実際に乗客対応をしたかにかかわらず全て労働時間に当たるとしました。

 一方で、始発バス停から離れた場所で待機するものについては、一般車両の通行や後続のバスとの調整等から必要に応じてバスを移動させなければならず、その対応に備えるためにバス付近で待機する必要があった等の事情がある待機場所についてのみ労働時間に当たるとしました。

3.休憩時間開始直後と終了直前の労働時間性

 判決は、原告らは休憩時間開始直後にはバスの移動、遺留品のチェック、次の行き先系統番号の表示、窓閉め、メインスイッチの停止などしており、これらの作業には5分間の時間がかかること、休憩時間終了直前にはバスに移動してバスに乗車し、始発バス停に1分前に着け、行先を案内するなどしており、これらの作業には5分間の時間がかかることから、休憩時間のうち10分間は労働時間に当たるとしました。

4.20分手当が既払いの割増賃金に当たるか

 判決は、20分手当は、労働時間に応じた割増賃金とは別に、シフトと異なる追加の乗務を割り当てられた場合に一律に加算されていた手当であり、その実質は、シフトと異なる労務に従事したことに対する手当であるとして、既払いの割増賃金に当たらないとしました。

※上告棄却により確定

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