憲法と労働法
目次
1 はじめに
法律が国が国民を縛る規範であるのに対して、憲法は国民が国を縛る規範です。憲法に反する法律により国民の人権を侵害することができないように権力を制限するのが憲法の役割で、憲法は法律に優先します。
日本国憲法は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」とする憲法25条1項を総則とした生存権的基本権として、労働法の原則や権利を定めています。
憲法上の労働法に関する規定についてみていきましょう。
2 勤労の権利(憲法27条1項)
第27条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
日本国憲法
勤労の権利を定めた憲法27条1項は、労働者がすべて労働市場において適切な労働の機会を得られるようにすべし、との国政の基本方針を宣言するもので、国に2つの政策義務を与えたものとされています。
⑴ 労働市場の整備
1つ目は、労働者が自己の能力と適性を活かした労働の機会を得られるように労働市場を整える義務です。
これに対応する政策として、国は職業安定法、雇用対策法、職業能力開発促進法、障害者の雇用の促進等に関する法律、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律、派遣法等を定めています。
⑵ 生活保障
2つ目は、労働の機会を得られない労働者に対し生活を保障する義務です。
これに対応する政策として、国は雇用保険法、求職者支援法等を定めています。
⑶ 勤労の義務
憲法27条1項は、国民は勤労の義務を負うとも規定していますが、これは、国は勤労意欲を持たない者のための施策を講じる必要まではないとの方針を表明するものです。
勤労の義務の考え方は、雇用保険上の失業給付の要件として求職活動が定められていることなどに表れています。
3 労働条件の基準の法定(憲法27条2項)
第27条② 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
日本国憲法
労働条件を使用者と労働者の自由契約に任せると、国民(主に労働者)に不利益が生じることから、国に労働契約に介入して労働条件の基準を定める政策義務を与えたものです。
これに対応する政策として、労働基準法、労働者災害補償保険法、船員法、最低賃金法、じん肺法、労働安全衛生法、賃金の支払の確保等に関する法律等があります。
4 児童の酷使の禁止(憲法27条3項)
第27条③ 児童は、これを酷使してはならない。
日本国憲法
児童の酷使が社会問題となってきた歴史から、国に児童の酷使を防止する政策義務を負わせたものです。
これに対応する政策として、労働基準法56条~64条の入職年齢・労働時間・安全衛生などに関する年少者の保護規定などがあります。
5 労働三権(憲法28条)
第28条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
日本国憲法
憲法28条は、労働者が労働組合等を結成・運営する団結権、労働者が使用者と団体交渉を行う団体交渉権、労働者が争議行為や組合活動を行う団体行動権の労働三権を定めています。
労働三権は、労働者個人と使用者には格差があることから、労働者が団体で使用者と対等な交渉をすることを保障する重要な権利です。
憲法28条は、国に労働三権を保障するための政策を義務付けるとともに、労働組合の正当な行為に刑事免責、民事免責といった強い保護を与えています。
6 その他憲法の規定
その他の憲法の規定も、当然に労使関係において尊重されなければなりません。代表的なものを挙げておくので確認しておきましょう。
(個人の尊重)
第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。(法の下の平等)
日本国憲法
第14条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。