Case137 懲戒解雇の場合の退職金不支給条項につき全額不支給及び一部不支給が有効となる場合を制限した事案・小田急電鉄(退職金請求)事件・東京高判平15.12.11労判867.5【百選10版34】

(事案の概要)

 原告労働者は、過去に2度、電車内での痴漢行為により罰金刑に処せられ、2度目は被告会社から昇給停止及び降職処分を受け始末書を提出していました。

 原告が再び電車内での痴漢行為により執行猶予付きの懲役刑に処せられたため、会社は、原告に対して、いかなる処分についても一切弁明をしない旨の自認書に署名押印させたうえ、原告を懲戒解雇しました(勤続20年)。

 会社の就業規則には、懲戒解雇により退職する者には原則として退職金を支給しないとの本件条項があり、会社は本件条項に基づき原告に退職金を支給しませんでした。

 本件は、原告が懲戒解雇の無効、また本件条項の無効を主張して退職金約900万円の支払い等を求めた事案です。

(判決の要旨)

1 退職金の全額不支給

 判決は、退職金は賃金の後払い的な性格を有し、給与及び勤続年数を基準として支給条件が明確に規定されている場合にはその性格が強いとしました。

 そして、賃金の後払い的要素の強い退職金について、その退職金全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要としました。特に、それが業務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど、業務上の横領や背任のような犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要であり、その判断に際しては労働者の過去の功、すなわち勤務態度や服務実績等も考慮されるべきであるとしました。

2 退職金の一部不支給

 判決は、職務外の非違行為が、1に述べたような強度な背信性を有するとまではいえない場合であっても、常に退職金の全額を支給すべきであるとはいえず、そのような場合には、当該不信行為の具体的内容と労働者の勤続の功などの個別的事情に応じ退職金のうち、一定割合を支給すべきであるとし、本件条項はその範囲で合理性を持つとしました。

3 本件へのあてはめ

 判決は、懲戒解雇を有効としたうえ、原告の非違行為は、私生活上の行為であり、報道等によって社外にその事実が明らかにされたわけではなく、会社の社会的評価や信用の低下や毀損が現実に生じたわけではないから、1に述べたような強度な背信性を有するとまではいえないとし、本件条項に基づき退職金全額の支払いを拒むことはできないとしました。

 もっとも、諸般の事情を考慮すれば、原告に支給されるべき退職金は、本来の支給額の3割である約280万円であるとし、その限りで原告の請求を認めました。

※上告

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