休職期間満了と復職
目次
1 はじめに
労働者が怪我や病気で一時的に働けなくなってしまうことがあります。多くの会社では、就業規則で私傷病休職の制度が定められており、労働者が働けなくなった場合には、会社の休職命令により一定期間の休職に入ることになります。近年、うつ病や適応障害等の精神疾患により休職する労働者が増えています。
私傷病で休職し、休職期間が満了するとどうなってしまうのでしょうか。休職と雇用契約の関係や復職のために必要な事項について確認しておきましょう。
なお、業務上の傷病の場合には、労働災害として特別の保護が適用されることになります。
2 私傷病休職の法的性質
私企業の私傷病休職について定めた法律はありません。
本来、労働者が私傷病により労務を提供できない場合、労働契約上の債務を履行していないことになり、解雇が検討されることになります。私傷病休職の制度は、労働者が一時的に労務の提供ができない場合であっても解雇を一定期間(6か月~2年程度が多いようです。)猶予する制度と言われています。
3 休職期間満了になるとどうなるの?
⑴ 休職期間満了の効果
休職制度は解雇を一定期間猶予する制度なので、休職期間が満了しても休職事由が消滅していない、すなわち労働者が復職可能な状態になっていない場合には、そのことが解雇事由になる旨就業規則に定められていることが一般的です。また、就業規則によっては、解雇ではなく、休職期間満了により当然に退職扱いになる旨定められていることもあります。
いずれにせよ、休職期間満了時に労働者が復職可能な状態になっていなければ、労働契約が終了してしまうことになります。
⑵ 解雇・退職扱いされた場合
休職期間満了前に労働者が復職を求めても、会社が復職不可として休職期間満了による解雇ないし退職扱いとすることがあります。
この場合、労働者は、休職期間満了時に復職可能な状態であったことを主張して解雇ないし退職扱いが無効であるとして雇用契約上の地位の確認や賃金請求をすることになります。
4 復職可能な状態とは?
⑴ 従来の原則
従来、復職可能な状態とは、休職前の業務を遂行できる状態に回復していることとされてきました。特に、職種を限定された労働契約(職種限定契約)の場合は、当該限定された職種として業務を遂行できる状態に回復していることが必要とされることが多いです。
⑵ 職種限定契約でない場合
もっとも、多くの労働契約は会社の人事権による配置転換が予定されている職種限定のない労働契約です。>片山組事件判決以降、職種限定のない労働契約の場合には、休職前の業務を十分に遂行できる程度に回復していなかったとしても、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供ができる状態に回復していれば復職可能といえるとされています。
例えば、精神疾患により残業が多く労働負荷の高い従前の業務に戻ることはできなくても、他の軽易な業務であれば働くことができる程度に回復していれば復職が認められることになります。
5 注意すべきポイント
⑴ 復職可能であることの立証
休職期間満了時に復職可能な状態であることは、基本的に労働者側が立証しなければなりません。
怪我や病気が回復して復職可能な状態であることの立証は、主治医の復職可能の診断書によることが一般的です。
もっとも、特に精神疾患の場合、主治医の意見は、復職したいという労働者の主観をもとに作成されることもあるとして、主治医が復職可能と言っているだけでは信用できないとされてしまうことがあります。
したがって、症状が回復してきたら、休職期間中にリワークプログラム(職場復帰に向けたリハビリテーション)を利用したり、日中は図書館に行って勉強をしてその時間を記録するなど、所定労働時間内に問題なく働けることを客観的に立証できるよう準備しておきましょう。
⑵ 復職の意思を明示する
復職の目途が立ったら、使用者に対して早めに復職の意思を示しましょう。休職間満了時に突然復職したいと伝えても、復職可能性について十分に検討されずに解雇・退職扱いされてしまったり、復職できなかったのは復職の意思を示さなかった労働者側に責任があるとされてしまうことがあります。
復職の意思は、争いにならないよう手紙やメール等、必ず証拠に残る形で示しましょう。
また、復職の意思を示す際に、復職先を休職前の業務に限定して復職の意思を示してしまうと、休職前の業務を十分に行う程度には回復していないと判断された場合には復職不可とされてしまうことがあります。復職の意思を示す際には、仮に休職前の業務に復職できない場合でも、配置可能性のある他の業務を行う意思があることを示しておきましょう。
⑶ 早めに労働問題に詳しい弁護士に相談する
会社は、一度体調を崩した労働者を職場に復帰させることを嫌がる傾向にあります。そのため、いざ休職期間満了が近づき復職しようという段階になると、会社が復職を拒み始めてトラブルになることがあります。
このような状態で休職期間満了を迎えてしまうと、休職期間満了時に復職可能であったことの客観的証拠の準備や適切な復職の意思表示の機会を失ってしまうため、復職を望む場合には早めに労働問題に詳しい弁護士や労働組合に相談するようにしましょう。