Case166 コロナ禍でのホテル従業員に対する休業命令について事業を停止していたわけではなく休業手当の支払いを要するとした事案・ホテルステーショングループ事件・東京地判令3.11.29労判1263.5

(事案の概要)

 原告労働者は、被告会社が経営するラブホテルにおいて、客室清掃等を担当するルーム係として勤務していました。

 原告は、ほぼ毎日所定労働時間の約1時間前に出勤し、タイムカードを打刻してからタオルを畳んで束ねる等の準備作業を行っていました。

 また、原告は、所定休憩時間にかかわらず、清掃作業の時間以外は原則として控室に待機し、混雑状況を踏まえて客室清掃を行っており、昼食も手が空いた時間を見計らってとっていました。

 令和2年3月29日以降、会社は、新型コロナウイルス感染拡大による売上減少に対応するため、従業員の勤務時間を減らすこととし、原告に対しても時短勤務や休業をさせていましたが、時短勤務については勤務時間分しか賃金を支払わないなど、従前の所定労働時間に対応する十分な休業手当(労基法26条)を支払っていませんでした。会社は、時短勤務を命じたことにより原告の所定労働時間が減少したと主張しました。

 本件は、原告が、会社に対して始業時間前及び休憩時間の残業を主張して残業代請求をするとともに、不足分の休業手当の支払いを求めた事案です。

(判決の要旨)

1 始業時間前の労働時間該当性

 判決は、原告が始業時間前に行っていた作業の性質が会社の業務そのものであること、会社が労務管理のために導入していたタイムカードの打刻後に行われていたこと、会社の管理が及ぶ店舗内でほぼ毎日行われていたことなどから、会社は常態的な作業の実態を把握し、これを黙認し業務遂行として利用していたといえるから、原告の作業は会社の包括的で黙示的な指示によって行われていたとして始業時間前の労働時間該当性を認めました。

2 待機時間の労働時間該当性

 判決は、原告の業務の実態から、所定労働時間内は状況に応じて業務に取り掛からなければならない可能性がある状態に置かれており、原則的に控室に常に在室することを余儀なくされていたといえ、労働からの解放が保障されていたとはいえないとして、所定労働時間内は全て労働時間に該当するとしました。

3 休業手当について

⑴ 所定労働時間の減少の有無

 判決は、会社が原告に対して時短勤務を命じたとしても、労働契約の内容が変更されるような合意等は存在しないとして、原告の所定労働時間は減少していないとしました。

⑵ 休業手当の要否

 判決は、労基法26条の「責めに帰すべき事由」とは、故意又は過失よりは広く、使用者側に起因する経営・管理上の障害を含むが、不可抗力は含まないとしたうえ、会社は事業を停止していたのではなく、毎月変動する売上の状況やその予測を踏まえつつ、人件費すなわち従業員の勤務日数や勤務時間数を調整していたのであるから、これはまさに使用者がその裁量をもった判断により従業員に休業を行わせていたものにほかならず、不可抗力によるものではなく「責めに帰すべき事由」による休業であるとして、会社に対して休業開始前の平均賃金により計算した休業手当の支払いを命じました。

※控訴

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